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【野球】掛布氏が語ったプロの生き様「納得して辞めるために」

 掛布雅之氏が2軍監督を務めていた時代、プロとしての生きざまを聞いたことがあった。プロ野球を取材していると、ドラフトはプロ生活のスタート、ここから横一線になるという言葉をよく耳にする。だがミスタータイガースの考え方は違った。「僕にとってはプロ野球選手はゴール地点だったんだよね」と明かす。

 習志野高校時代に甲子園出場を果たすも、アマ球界で目立った実績を残すことはできなかった。ドラフト前に阪神タイガースの入団テストを受験。そこでのプレーぶりが認められ、ドラフト6位で入団することができた。

 「だから活躍しようとか、ライバルに勝とうなんて思っていなかった。プロ野球の世界に入ることが夢でやってきた。だからユニホームを脱ぐ時は納得して辞めなきゃいけないと思ったの。タイガースに入って、お世話になって、とにかく悔いだけは残したくなかったんだよね」

 常に辞める時のことを考えていたからこそ「行動は違ったと思うよ」と掛布氏は言う。ドラフトがスタートと考えるのであれば、どうしても意識の中に時間的な余裕が生まれてしまう。「明日、やればいい」という選手たちも周囲にはいた。

 だが「明日、辞めるとなったら、きょうの内にバットを振っておかなきゃいけないでしょ」というのが掛布氏の考え方だった。寮の屋上で深夜まで1人でバットを振っていたというエピソードは、今でもチーム内で語り継がれている。

 高卒1年目の1974年に数少ないチャンスをものにし、開幕1軍の切符をつかんだ。ドラフト1位選手のように、球団から期待をかけられ、育成のためにポジションを与えられた立場ではない。納得して辞めるために、悔いなくユニホームを脱ぐために、その瞬間、瞬間でベストの行動をしたからこそ-。テスト生同然のドラフト6位から、ミスタータイガースは生まれた。

 2軍監督時代、よく若手選手に対して「1人でやる練習の大切さ」を訴えていた。1人で納得するまでバットを振りこむ。他人に干渉されるのではなく、1人で悔いのない時間、日々を過ごす。「1人になることを怖がっていてはダメ。孤独の中でやるからこそ、意味がある」。それは掛布氏が最も後輩たちに伝えたかった経験談であり、プロとしての危機感を植え付けるための言葉だったのかもしれない。

 プロ入りをスタートとするのではなく、ゴール地点と定めて一日、一日を納得して過ごす-。それは決して野球だけでなく、色んなスポーツ、業種に通じる部分があるように感じる。(デイリースポーツ・重松健三)

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