【野球】桧山進次郎 野球の神様に愛された代打の神様…現役最後の本塁打

 虫の居所が悪い時、調子が悪い時、ミスを犯した時。どんな選手だって取材を受けたい心境ではないはず。「こんな時だけ」「勘弁して」、時には無言のまま手で質問を制されたことも一度だけではない。でも、この人には取材を断られた記憶がない。阪神・桧山進次郎だ。

 暗黒時代と呼ばれる阪神低迷期の4番を務めた男。負けが込めば批判は監督や4番打者に向き、論評も自然と厳しいものになった。

 当時の甲子園は試合直後の一塁側ベンチから2階ロッカールームまでの約50メートルと、ロッカールームから三塁側スタンド奥の駐車場までの約300メートルが取材可能だった。敗戦後の取材は選手にとっては酷な距離だっただろう。

 だが、桧山はどんな質問でも受け止め、必ず答えを用意した。それがどんなに厳しい内容でも、時に質問の内容が幼稚でも。最後の質問が終わるまで足を止め、最後は会釈して愛車に乗り込んだ。数少ない“大人の対応”をする選手だった。

 22年間の現役生活にピリオドを打った2013年。そこに野球の神様は確かに存在した。引退試合となった10月5日の巨人戦では惜しくも3打数無安打。シーズン2位で進んだクライマックスシリーズ・ファーストステージの初戦で広島に敗北。2戦目も2-7と劣勢で、出番のないまま九回を迎えた。

 福原→鳥谷→マートンと続く打順。先頭打者の代打で登場すると見ていたが、打席には代打・上本。鳥谷とマートンに代打は考えにくい。もしこのまま三者凡退なら、出番なしで現役最終戦を終えてしまう-。そんな心配が胸に去来したが、ここで代打の神様が、野球の神様を降臨させた。

 上本は投ゴロ。鳥谷も三振に倒れたが、マートンが右前打。ここで俊介に代わって桧山の登場だ。1ボールからミコライオの154キロ直球を右翼ポール際に運ぶ劇的2ラン。結果的として4-7で敗れ、図らずも現役最終戦となってしまったが、球場を埋めたファンは負けたにもかかわらず、「いいモン見れたわ」と納得顔で帰路に就いていたのを覚えている。

 後日、桧山にあの場面を振り返ってもらう機会があった。出番なしで現役最終戦を終えてしまう可能性のあったあの日をどんな気持ちで見ていたのか。

 「それ(出番なし)でも構わんと思ってたよ。俺の中での区切りは、5日(の引退試合)でついてたから」。カッコよすぎるぜ。野球を愛し、野球に愛された男が放った現役最後の本塁打。野球の神様って、やっぱりいるんだな。(デイリースポーツ・鈴木健一)

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