【野球】荒木雅博 苦痛から救ってくれた命の恩人 一生忘れない乾杯のビールの味

 針で刺されたような痛みに襲われたのは、今から32年前の高校2年の秋。プロ野球選手に憧れ、白球を追った毎日。新チームの主将となり、授業中にも練習メニューを考えたり、新しい守備のフォーメーションを模索してみたり…。無理をし過ぎたのだろうか。食間にみぞおちが痛む日々が始まった。

 それから6年後。朝起きて、トイレで用を足していると、便器が鮮血で染まり、今までに見たことのないテカテカした黒い便が出た。即入院。十二指腸潰瘍と診断され、内視鏡による手術を受けた。それでも、梅雨や季節の変わり目になると毎年、胃がうずいた。

 この業界に入り、とある選手とご飯を食べていた時、胃痛の話になった。「先輩、それピロリ菌っすよ。絶対除去した方がいいです。ガンになる要因のひとつって言われてますから。僕、薬飲んで治しましたよ」。声の主は中日・荒木雅博(現中日内野守備走塁コーチ)。実は彼も長年にわたって胃痛に苦しんでいたが、ピロリ菌を除去することで悩みから解放されたのだという。

 すぐさま病院に出向いて検査を受けると、陽性の判定。その日から毎食後に3錠の薬を1週間飲むことを義務づけられた。「この薬をちゃんと飲んでおけば、99%ピロリは消えます」という医師の言葉に長年の悩みから解放されるという安堵(あんど)感を覚えたのだが、ドクターはこうも続けた。

 「この薬は胃の中にいる悪い菌をやっつけますが、同時に胃を守るいい菌も殺してしまうんですね。だから、多くの方は腹痛を伴った極度の下痢になります。それだけは覚悟しておいてください」

 受診したのは5月で、当時は阪神担当キャップ。タイミングの悪いことに連続勤務が続いていた。案の定、試合中に何度も腹部が痛くなったが、トイレに駆け込んでいる間に1面ネタになるプレーが起こったら…と思うと痛みに耐えるしかなかった。これもまた苦痛だった。

 服用期間を終え、改めて病院を受診。呼気検査をすると晴れて「陰性」の判定。その後の人間ドックでも陰性の判定を受けた。命の恩人に陰性判定が出たことを告げると、大阪市内の焼き肉店で“快気祝い”の宴を開いてくれた。

 荒木「良かったですね。僕もその苦しみを知ってるから、うれしい気持ちが分かりますよ」

 記者「ホント、ありがと。トラちゃん(荒木の愛称)から薬の話を聞いてなかったら、ずっと苦しんでたと思うし」

 上質の肉を目の前にしながら、グラスに注がれたビールで乾杯。生ビールは2杯以上飲めないタチではあるが、ノドを駆け抜けた爽快なビールの味は一生忘れない。(デイリースポーツ・鈴木健一)

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