【野球】阪神・山崎憲晴が張り上げる声…中堅選手がひたむきに、ひたすらに

 セミの鳴き声が次第に弱々しくなり、赤トンボが秋の訪れを感じさせる。晩夏漂う8月下旬。それでも鳴尾浜球場には、厳しい太陽が照り付ける。大声響く朝のウオーミングアップ。ある選手の動きが目に留まった。球団関係者はふと、疑問が頭に浮かんだという。

 「アップで声が小さくなる年齢って、いつごろからだろうか」

 基本的な動きを紹介すると、アップでは年齢が若い選手から4、5人が列をなし、後方にはベテラン選手が並ぶ。その序列は結果を残し、プロで生き抜いてきた証しであるとともに、前列に比べると後列の声量は下がっていく。だが、そんな常識からあらがうように、後列から声を張り上げる選手がいた。連戦でも休養日明けでも、常にその姿は変わらない。

 山崎憲晴、31歳。昨季、DeNAを戦力外となり、トライアウトを経て阪神に入団。10年目の中堅選手だ。「絶対に勘違いだけはするな、と言われ続けてきましたから」。プロの世界に入っても変わらない姿。その原点は、横浜商科大で過ごした4年間にあるという。恩師・佐々木正雄監督は今年6月、今秋限りでの勇退を表明した。

 「率直に僕は、あの人の下にいなければ、プロに行くことはできなかったと思います。4年間、すごく厳しかったんです。本当にすごく…。誰にも負けないくらい。いまの時代じゃ言えないこともありました。たくさんあるんですけどそれも含めて、結果で見返そうとした4年間ですね」

 埼玉栄から進学後、1年の春からレギュラーに定着。2、3年時には大学日本代表に選出され、国際大会でも活躍した。プロ入りは確実。そんなホープは最上級生になると、監督からキャンプテンに任命された。「すごく厳しかった」というのは、この頃の話。中でも思い出すのは代表合宿から戻り、リーグ戦が始まる前の練習中だった。平凡なゴロを捕り損なった。そんな姿が監督の逆鱗(げきりん)に触れた。定位置はく奪…どころか、グラウンドの立ち入りも禁止されたのだ。

 「試合にすら出してもらえなかった。その間、ずっと草むしりです。朝、一番に球場に来てトイレの掃除。試合中はずっと草むしりをして、みんなが帰ったあとにまたトイレ掃除。最後に反省文を書いて1日が終わる」

 全ての課題が終わった後、ようやく自分の時間だ。夜が更けたころ、マネジャーに頼み込み、キャッチボールをして、ティー打撃をカゴ1箱打って帰る。そんな毎日だった。原動力は反骨心。どんなに記憶をたどっても、褒められたシーンが蘇ることはない。ただ、プロの世界で5年を生き抜き、10年目のシーズンを迎えた。「いま思えば…」全ての記憶が鮮明で、全ての経験が今に生きるという。

 「理不尽と言えば理不尽でした。ただ、監督は僕が周りからの反感を買わないために、『あいつかわいそうじゃない?』くらい、厳しく接してくれたと思うんですよ。結果を出すための根性と、反骨心を養ってもらいました」

 移籍初年度の今季は29試合に出場。2度、スタメンでも起用された。7月19日から再調整となったが、再昇格に向けて準備を続ける。前述の関係者は言う。「例えば、エラーにもいろんな種類がある。送球ミスや捕球ミス。内野手で最悪なのは、股の下を抜けるトンネルだと思う。あいつに飛んだ打球で、そんなシーンを見たことがない。どんな打球でも体を張って止める。試合でも練習でも」。そう断言した上で、続ける。

 「たとえ結果は同じだとしても、ピッチャーが、送り出したベンチが納得できるかどうか。山崎なら仕方がない。そう思えるかどうかで、全然違う。その姿は伝わるもの。こういう選手は、必ず1軍の力になると思う」

 夢を与える存在がプロ野球のスター選手なら山崎は、希望を届けることができる数少ない一流選手だろう。ひたむきに、ひたすらに。必死に白球を追う姿に光を見たい。いま苦しむチームに必要なのは、そんな中堅選手の姿なのかもしれない。(デイリースポーツ・田中政行)

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