【スポーツ】アメフットをより安全に… 審判の努力と願い

 アメリカンフットボールの定期戦で、日大DLの悪質なタックルで関学大QBが負傷した問題。まだ収束はしていないが、かつてないほどアメフットの話題が日本を包んだのは事実だ。

 あのタックルの映像が幾度となく映し出されることで、アメリカンフットボールは危険なスポーツだというイメージを抱いた人は少なくないだろう。

 しかし、筆者はアメリカンフットボールもある意味“被害者”だと思っている。多くの人が日本でのアメフットの普及に尽力している姿を知っているし、より安全に競技が行われるよう努めている人は本当に多い。その努力を踏みにじられたような思いが、どうしてもしてしまうからだ。

 関西学生アメフット連盟で審判部長を務める浜田篤則氏(58)は「今回のことがあったからではなく、ずっと変わらず安全は第一。大前提」と言う。

 1900年頃、米国では大学ごとにルールが曖昧で、毎年20人近い学生の死亡事故が発生していたという。アメフット廃止運動も起きた。これを受けて1905年、より安全にプレーできるよう明確なルールを定めることに決めたのだが、その中心となったのが、当時の米国トップであるルーズベルト大統領だった。アメフットではラグビーと異なり1プレーで1度だけ前にパスを投げることが許されているが、それを定めたのもこのときのことだ。

 そこからルールも、防具も進化を続け、タックルの基準もより厳しくなっている。より安全なスポーツとなるよう、アメフットは変わり続けているのだ。

 今回の問題が大きくなり始めた頃『審判はなぜ1プレー目で退場にさせなかったのか』という議論も多くなされた。もちろん、1プレー目で資格没収(退場)処分にすることは可能であり、あのようなプレーはもはや「アメフトではない」とした上で、浜田氏は「次に繰り返さないことが、今大事なこと」と言った。

 より面白い試合、激しいプレーを求めるためには、審判団の「厳しいジャッジ」も重要となる。ここでの厳しさとは、やたらと笛を吹くことではなく、いいプレーと絶対にやってはならないプレー、その線引きを明確に示すことだ。

 日本のアメフットは、本場米国にはまだ遠く及ばないが、実は世界選手権を連覇したこともあるほどレベルが高い。(当時米国は出場しておらず、第3回からはNFL選手をのぞくアマチュアチームで出場。そこから米国は3連覇中。壁は高いのも現実なのだが…)

 審判も、米国で毎年4月末に行われ、300人以上が集まる講習会「ナショナル・レフェリー・カンファレンス」に日本から出席し、よりよりジャッジを追求している。今年は東西1名ずつの2名が参加。米国以外からはドイツ人審判が1人で来ていたというが、日本の審判の努力・意識の高さが感じられる部分だと思う。

 浜田氏はルール変更会議が行われる際も渡米しているし、個人的な親交があるテキサスの研修会にも30年ほど前から参加しているという。

 日本でも審判へ向けたビデオクリニックなどの講習会・検証会は多く行われている。関西学生連盟では、選手へ向けたルール説明会も年に2度、チームの代表者を集め、それを各大学で拡散する形で実施しているという。ドクターからの講習会も実施されているし、試合中の熱中症や脳振とうは各チームはもちろん、審判も常に警戒している。

 負傷QBが復帰したことが話題となった27日の関学大-関大戦(大阪府吹田市・万博フィールド)では、ビデオによるリプレー検証が試験導入されていた。主に「ターゲティング」(首から上へのタックルや、ヘルメットの頂点を向けてタックルする反則)を裁くためのもので、安全施策の1つとして、秋からは関西1部リーグで導入する予定という。より厳しく、より安全なジャッジを求め続けているのだ。

 私自身、正直はじめはラグビーとの違いもよく分からなかったし、大きな人がぶつかり合う怖いスポーツだとも思っていた。

 しかし違った。競技性はラグビーよりも、むしろサッカーやバスケットのセットプレーに近いように思う。野球に例えると、投手の配球のように攻撃を組み立て、守備陣はさまざまな状況を想定しながら次の一手を読み打ち砕くような、緻密で、迫力満点のスポーツだ。

 負傷QBの復帰戦は有料試合ながら、通常の春季リーグとしては異例の約3000人を動員した。秋季リーグの終盤戦は1万人を集めることもあるし、全日本学生選手権決勝・甲子園ボウルは3万5000人以上の観客が入る。私は経験者ではないし、全てのルールを理解しているわけでもない。難しい専門用語には、今もついていけないけれど、見れば見るほど面白いと思える、奥の深いスポーツだ。

 関学大の負傷QBも復帰戦後「アメフトが危険なスポーツと思われないように、日本でも人気なスポーツに、フェアで、すごい面白いスポーツだという風になってほしい」と語った。ピンチをチャンスに、というのは不謹慎かもしれないが、あえて言いたい。これだけ高まった“知名度”を無駄にしてはならない。春シーズンはもう終盤。問題の根本解決を願うとともに、本気と本気がぶつかり合う秋、フェアで、安全で、最高に盛り上がる戦いが見られることを楽しみにしたい。(デイリースポーツ・國島紗希)

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