【スポーツ】遠藤、新三役も会見で笑顔なし その理由は…

 大相撲の人気力士、遠藤(27)=追手風=が夏場所(13日初日、両国国技館)でついに新三役となる新小結に昇進した。新番付発表の4月30日、埼玉県草加市の部屋で行われた会見は笑顔がほとんど見られぬ、“ザ・アスリート”の遠藤らしい新たな一歩だった。

 角界に入った以上、力士の誰もがあこがれる三役の地位。番付表を手に大きくなった自身のしこ名を笑顔で指さすのが幸せの瞬間だ。その晴れ舞台でここまで表情を崩さぬ力士を見たことがない。

 昇進の気持ちを問われてもそっけない。「いつもの番付発表と変わらない。こういうこと(会見)をしているけど気持ちは変わらない」。笑みのない理由を「隙を見せないように」と自身を戒めているようだった。

 普段の支度部屋では寡黙な力士。30分以上の会見で冗舌には話したが、そのほとんどはケガに関してだった。

 「入門してからケガがあったりとか、これからというときにまたケガしたりとか、その繰り返しだったので少しずつ付き合い方が見えてきたというか、こうして今は付き合っている。今より良い付き合い方があると思うんですけど、そういうのを自分で見いだしてやっていけたらと思います」。

 アマチュア横綱&国体王者として鳴り物入りで入門し、13年春場所で幕下10枚目格付出デビュー。イケメンな上にスピード出世で相撲人気回復の立役者となった。しかし大関候補のホープにとって、三役はいつしか近くて遠い地位だった。

 15年春場所では5日目の松鳳山(二所ノ関)との一番に突き落としで勝利した際、左膝半月板損傷・前十字靱帯損傷の重傷を負い休場。そこからは下半身のケガの連続で、昨年7月には右足首に初めての手術を施した。

 「(3年前の)膝のケガが言われていますけど、新入幕の時に足首をケガしたこともそうですし、タイミングよくじゃない、タイミング悪くですね、その都度その都度足首とか膝とかそれが悪化したりとか、そういった感じですね。良いときもあれば悪いときもあると思って、考えるところはありますけどそのうち良いことあるだろうと思ってました」、

 昨年秋場所、前頭14枚目から10勝、9勝、9勝、9勝と4場所連続で好成績。ケガとの付き合いは決して無駄ではなかった。

 「ケガしたとこによって相撲もちょっと変えないといけないとおもっていましたし、今まで取っていた相撲がとれないと思っていたので、取れないと思ってこれからこうしていかなきゃなと思った相撲スタイルというか。少し、15日間毎日じゃないですけど、取れるようになったというか。それはうまくケガと付き合えるようになってきたということだと思うので、それが一番大きい」。

 会見に同席した師匠の追手風親方(元幕内大翔山)は「ケガ、ケガ、ケガ、ケガ」と間近で見てきたからこそ遠藤のすごみが分かる。「腐らずコツコツと治療してトレーニングして3年間やった。普通だったら少々腐るじゃないですか。下から若い力士が上がってくるし、こつこつこつこつやっているので、大丈夫かって話はしましたね、精神的にですね」とねぎらった。

 まるで求道者のような相撲への姿姿。親方は「耐えているんじゃないですか」と言う。浮かれず最近の力士では珍しいほど、口数は少ない。「三役上がっているのでうれしくないはずがない。それを表に出さない。昔のお相撲さんは分かっていても分からないという美学があった。そういう力士を目指しているのではないですか。今はサービスが足りないとかどうのという話になる。ピースして帰って行くやつもいる。自分は違うなと思う。今はそれがみんなには好まれる。そこの目指すところの違い。みんなの前では暗いけど、普通は暗くない。記者さんの前では話さないようになったこの3年間で。ケガとかいろいろ書かれたりいろいろなことがあるじゃないですか、言ったことと違うことがでたりとかその積み重ねでしゃべると良くないなってなるんじゃないですか。たぶん、そう思います。それを相撲で勝って証明していくしかない。負けているうちは何したって認められないじゃないですか、勝って初めて認められる。本当は笑っているんですよ。うれしくて。うれしくないはずがない。だけどそれを出さない。今は出している方がサービスになる。でも芸能人じゃない。昔、今には合わない。自分らの時はそうだった。しゃべったら怒られた。はい、しかいえなかった」と代弁した。

 親方から見れば、お相撲さんとはかけ離れた生活だ。「お相撲さんは稽古いっぱいして飲んでくってというイメージがある。遠藤は酒飲むわけでもなし遊びに行くでもなし、たまには年に1回か2回行っているかしらないすけど、基本的に治療してトレーニングして稽古して、出かけるのはちょっとそこら辺のご飯やに行って帰ってきてという生活、すごいなと思う。『ずっと部屋にいて大丈夫か』とたまに冗談半分本気半分で話をしていて。おれだったら息詰まるぞという話をする」。

 この3年で遠藤にとっては私生活すべてがケガが中心になってしまった。「ケガする前はメリハリじゃなく、すぱっと相撲を忘れる部分があったんですけど、やっぱりけがをしてからは、私生活でも痛みを感じる訳なんで。やばいな、痛みひどいから稽古明日できないかなとか、稽古終わった後にちょっと調子悪くなったら、明日できるかなと常にそういう考えを持ってきた。例えば、出かけて食事を食べたときに座敷でずっと座っていたら足が固まって帰るときにタクシー乗って狭い中で足をずっと折りたたんで、部屋についたときに階段上がるときに手すり使いながら上がったりしたら、明日稽古できるのかなと」。

 かつて親方は「アスリートでは勝負師に勝てない」と言ったことがある。「ここ一番になったら10ある力を12、13出すのが力士。ちゃらんぽらんでも。これ勝ったら優勝だとか。勝負師というか、普段しないことをしたりとかするわけじゃないですか。アスリートというのはこつこつやって自分の形を作っていって、10の力が12はでない」。

 お相撲さんとは対極に位置する。しかし“ザ・アスリート”をここまで極めたからこそ、はい上がってこれたのは確かだ。

 「まだお先真っ暗。今と向き合って、つらいときはしのんで、必死にもがいてやるしかない」。決してリップサービスはないが、込めた言葉には27歳の遠藤の本心と決意が詰まっていた。(デイリースポーツ・荒木 司)

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