【スポーツ】フィギュアの戦術戦、羽生、荒川に共通する金メダリストの冷静な判断

 平昌五輪フィギュアスケート男子の羽生結弦(ANA)の金メダル獲得の余韻がさめやらない。4回転ループを封印して4回転2種類で優勝した羽生だが、熱心なファンは別にして、テレビ桟敷でこれだけ「サルコー」「ループ」「基礎点」などとジャンプの種類や採点に関心を持たれることはなかっただろう。それほどフィギュアの戦術面にも注目が集まっている。

 2006年トリノ五輪。女子初の金メダルを獲得した荒川静香も、冷静な戦術で勝負を制していた。その前シーズンから現在の採点システムが正式採用されていた。女子でも3回転-3回転が跳ばれるようになったばかりで、荒川にも大きな武器となっていた。事前合宿でも3回転-3回転に成功し、得点源として期待されていた。

 ショートプログラム3位で臨んだフリーでは、1位にサーシャ・コーエン(米国)、2位にイリーナ・スルツカヤ(ロシア)と優勝候補の2人が上位に立ちはだかっていた。1位から3位までは0・71点差という大混戦。荒川は3回転-3回転で逆転を狙うと見られていた。

 しかし、直前に滑走したコーエンがジャンプ2つをミスしたことから、荒川を指導するニコライ・モロゾフ・コーチはあえて冒頭の3回転-3回転を3回転-2回転へと変更。ただ、ルッツ-ループの組み合わせで基礎点の降下は最小限に抑えていた。

 荒川はすべてのジャンプに加点がつく出来栄えで、基礎点が上がる演技後半に3回転-2回転-2回転も成功。スピン、ステップでも高レベルを獲得し、2年ぶりに自己ベストを更新する合計191・34点でコーエンを上回った。

 観客を沸かせた完璧な演技が重圧を与えたのだろう。最終滑走の世界女王スルツカヤはこわばった顔で、これまでほとんどミスのなかったジャンプで転倒。フリー1位で逆転した荒川の手に金メダルは渡った。

 荒川はこのシーズンの途中に、2シーズン前に世界選手権を制したフリー「トゥーランドット」へとプログラムを変更していた。五輪に向けての決断だった。くしくも今回の羽生も2シーズン前に当時の世界最高を更新した「SEIMEI」を今季始めから採用。自身の魅力を最大限に引き出すプログラムを見極めていた。故障を抱えた五輪本番ではジャンプの種類を絞り、現状での完璧な演技を目指した。

 どちらの金メダリストも演技だけでなく戦術にもたけていた。華麗な氷上の陰にある、もうひとつの戦いも制していたのだ。

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