【野球】女子野球、“心の遺伝子”を未来につなぐ

 面白い試みだ。12月初旬、来年8月に開催される「第8回 WBSC 女子野球ワールドカップ」に出場する、侍ジャパン女子日本代表が関西地区、関東地区での計4日間のトライアウトを終えた。

 特徴的だったのは関西、関東各2日間のテストで行われた「フィットネステスト」だ。遠投、ベース間の直線やベースランニングを含めた走力、スイングスピード、皮下脂肪までを測定する身体測定まで多岐にわたった。

 ここで疑問が生じる。W杯へのトライアウトだとすれば、走者を置いて実戦形式で行われたシート打撃だけで代表選手に求める状況判断力、勝負強さは見られる。ただ橘田恵監督の答えは明確だ。「自分の現在地を知ってもらうためです」。

 今回トライアウトは「少しでも多くの選手を見るために」と橘田監督の提案から2会場で開催され、計94人が受験した。来年のW杯メンバーの選出が前提だが「いろんな項目が数字として明確に出ることで、代表に選ばれた選手と自分の比較もできる」という。

 つまりトライアウト落選で終わりではないということ。次へ向けて何を強化すればいいのか。明確な目標を持って今後へ臨むことができる。代表に選ばれた者、代表を逃した者、そのどちらにもトライアウト参加の“意味”を作っている。

 トライアウトには軟式野球部の選手も含まれていた。硬式選手に混じってのテストは難しさもあったが橘田監督は「チームに持ち帰って今回の話をしてほしい」と声を掛ける。参加選手だけでなく、伝え聞いたチームメートも自らの課題、進む道を明確にすることでレベルアップを図る。

 共通しているのは常に女子野球の未来を見据える点だ。今代表のヘッドコーチを務める阪神の木戸勝彦球団本部部長は「選手へは『ここがダメだ』ではなく、『こうしたらもっとパフォーマンスが出せる』というアドバイスしている」という。

 「W杯も重要だが、もっと先を見据えてね。彼女たちがチームの主力、指導者として伝えていく側になったときのために」。そしてもう1つ。「将来、母親になって子供たちに野球の楽しさを伝えられたら野球界にはプラス。“心の遺伝子”をつないでいける人になってほしい」とした。

 橘田監督はトライアウトを振り返り「収穫のある4日間」と話し、当落線上にある選手の中にも「2年後には(代表に)という子が何人かいた。今後も見ていきたいと思う」と充実感がにじんだ。

 男子野球が少子高齢化によって若年層の競技人口を減らす中、女子野球は競技人口を増やしている。橘田監督は「不思議なスポーツですよね」と笑うが、女子球界全体の地道な取り組みが成果として表れている証しだ。

 今回測定したデータを橘田監督は「他の国にも公表しようと思っている。日本が強いだけで良いとは思わない。それでは野球は普及しない」と明かす。その視点は、どこまでも女子野球の未来を、世界を見据える。今後の球界発展のヒントが、そこにあると感じた。(デイリースポーツ・中田康博)

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