【競馬】新人騎手、富田暁が奮闘中 降着も経験「あの失敗があったから」

 M・デムーロ騎手の10週連続G1馬券圏内が話題となった秋競馬。リーディングを争うジョッキーたちに注目が集まる一方で、今回は一人の新人ジョッキーを取り上げたい。

 今年デビューの富田暁騎手(20)=栗東・木原=である。4月に初勝利を挙げ、先週までに積み上げたJRAでの勝ち星は15。今年デビューの新人騎手の中では、1位の武藤雅騎手(19)=美浦・水野=の20勝に次ぐ数字。今の心境を富田に聞くと「ジョッキーになって、この世界の厳しさを感じる。簡単には勝てない世界ですが、毎週競馬のある楽しさも感じています」と率直な思いを口にした。

 注目は、10月8日から11月5日までの5週間で、富田は毎週勝利を挙げたということだ。「勝てばいい馬が回ってくるサイクルだし、周りの人たちのおかげです。自分の力ではこんなに乗せてもらえないので」と富田。「先生(木原師)からは人に感謝することを忘れないように。お前の力だけじゃ乗れないんだよと言われています」と口元を引き締める。

 積み上げた15勝のうち、最も印象に残っていることを聞くと、「初勝利」と答えてくれた。しかし、即座に「騎乗停止になったこと」という言葉が若武者の口を突いた。今年8月の小倉。富田は最後の直線で外側に斜行したため、1着入線から2着に降着し、同月12日から20日まで騎乗停止の処分を受けた。「プロとしての自覚が足りなかった。もう一度客観的に競馬を観て、自分の未熟さを知りました」と唇をかむ。そして「あの失敗があったから“今の自分”があると思う」と自らを振り返った。

 まだ20歳の青年が、自身の成功よりも失敗を、印象深く、そして冷静に話す。「なんと殊勝なんだ」と記者は実感した。そんな若者に「好きな言葉は」と聞いてみた。すると数秒間考えてから、「徳川家康の言葉なんですが、『不自由を常と思えば不足なし』がモットーですかね。苦しいことを当たり前と思えば、苦しくないという考え」と話してくれた。実に立派な思考の持ち主である。

 24日の京都での高雄特別では、自厩舎のメイケイレジェンドで特別レース初勝利。圧倒的1番人気のショパンをマークする形で運び、直線でかわしてVへと導いた。「あの馬の形に持ち込めればと思っていました。強い馬に勝ち方を教えてもらいました」と目を輝かせた。

 今後の目標については「目の前のレースを勝つこと。それしかないです」と力を込め、「これから騎手を続けるにあたって、減量が取れたときにどう生き残っていくかも意識していきたい」と先を見据える。休日は睡眠や買い物と、リフレッシュに充てているという。「趣味がないんですよね(笑い)」。今は競馬に全力投球、それでいいじゃないか。そしてそんな実直な若武者が戦う姿を、これからも伝えていきたい。(デイリースポーツ・向 亮祐)

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