【スポーツ】元UFC戦士、菊野克紀 異例の五輪テコンドー挑戦「KO狙い」は通用するか

 総合格闘家で、世界最高峰のUFCにも参戦した実績を持つ菊野克紀(35)=チームKIKUNO=がこのほど、テコンドーで2020年東京五輪出場を目指すことを表明した。極真空手や沖縄空手の技術をベースに、近年は異種格闘技イベント「巌流島」でもエースを務める菊野だが、五輪競技という究極のアウェー戦を前に「“一人巌流島”ですね」と武者震いしていた。果たして、白帯から挑戦するテコンドーにおいて台風の目となるのか、それとも玉砕するのか-。

 外様ファイターの活路は「KO狙い」にあった。7月から週2日、テコンドー道場に通う菊野は「蹴りが速くて見えない。テンポも速くて、僕が1発蹴る間に3発食らう」とポイント狙いで手数の多い蹴り技に対して戸惑いも見せつつも、自身の攻撃には自信ものぞかせた。「防具越しなら本気で殴っていい、倒していいというルールなので、沖縄空手で鍛えた突きの技術なら倒せる」。実際に練習を重ねる中で「防具の上からでも自分の突きが通った」と手応えを口にする。

 ここでテコンドーのルールを簡単に紹介する。フルコンタクト(直接打撃)制で行い、2分×3ラウンドの試合時間内に獲得したポイント数で勝敗を決める。胴体はプロテクターへのパンチと蹴り、頭部はヘッドギアへの蹴りのみが可能で、攻撃がクリーンヒットするとポイントとなるが、防具のない下段などへの攻撃はできない。また、攻撃で倒れた相手が10カウント以内にファイティングポーズを取れない場合(KO)や、相手セコンドが試合を中止させた場合(TKO)も勝利となり、反則は10回で負けとなる。

 細かいポイント競争では勝機が少ないなら、世界の強豪をなぎ倒してきた打撃でKOすればいい。テコンドー道場「憲守会」で菊野を指導する全日本協会の小池隆仁強化委員長(50)は「普通にテコンドーをしてもまず勝てないので、『テコンドーはするな』と教えている」と意外な言葉を口にし、「手段は教えるので、(今のままで)勝てる形はある」と太鼓判。沖縄空手をベースにした“一撃必殺”のファイトスタイルをテコンドールールの中で貫けばいいというわけだ。得意の三日月蹴り(つま先での中段蹴り)もポイントにはならないが、KO狙いの隠し技になる。

 追い風となったのが今年行われたルール改正だ。押して相手を倒した場合、今までは攻撃側の反則となっていたが、現行では倒れた相手側の反則になる。約11メートル四方の会場で、相手に圧力を掛けながらスタミナを削り、KO狙いの一撃を狙う戦法が有利になる。小池氏によれば、今年の国際大会では旧ルールに比べてKO率が上がったといい、菊野も「突きと、格闘技で鍛えた体格で圧を掛ければ、自分の蹴りが効く」と自信をのぞかせた。

 テコンドー特有のスピードや電子防具への対応も課題になる。五輪実施階級では男子68キロ級があるが、体重約70キロの菊野はあえて80キロ級に挑戦する。小池氏によれば「68キロ級はスピードも技術もある選手が国内外で多いが、80キロ級だとそこまで強い選手はいないので有利」と、菊野の百戦錬磨のスタイルがより通用しやすいという。また、菊野の練習ぶりに「格闘家として実績があるのに謙虚に取り組んでいる。教えたことをすぐに理解して対応する生まれつきの格闘センスがある」と評価する。

 とはいえ、世界中の猛者たちが目指す五輪出場への道は険しい。19年12月の時点で世界ランキングポイントで6位以内に入るか、開催国に出場権が与えられる男子2枠に選ばれるしかない。ただ、小池氏は「日本で一番強い選手を出して、メダルを獲らせたい」と話しており、ここから2年間の戦いぶりでアピールできれば道は開けるかもしれない。

 来年1月の全日本選手権で優勝すれば、強化指定選手に選出される可能性が高く、まずは初陣となる29日の東日本地区大会(千葉・袖ヶ浦市臨海スポーツセンター)で出場切符獲得を目指す。35歳のプロ格闘家が慣れない舞台でどのようなファイトを見せるのか。今からワクワクせずにはいられない。(デイリースポーツ・藤川資野)

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