【スポーツ】スノボ平昌メダル候補18歳と老舗旅館…意外な“Win-Winタッグ”

 18年平昌五輪のメダル候補がタッグを組んだ相手は、意外にも103年の歴史を持つ老舗リゾート企業だった。スノーボード女子スロープスタイルで15年世界選手権金メダルの鬼塚雅(18)が7月、リゾートホテルなどを運営する「星野リゾート」と所属契約を締結。同社は1914年に長野県軽井沢の旅館として創業を開始し、現在は国内外でホテルなど37施設を運営する。アスリートが所属するのは初めてのことだという。

 自身が4代目という同社の星野佳路代表は「私も年間60日はスキーをやっている。経営者として数値目標を出しているのはスキーだけです」とジョークを飛ばすほどの無類のスキー愛好者。同社がスキー場の運営を開始したのが03年で、福島県北部の耶麻郡にある「アルツ磐梯」「猫魔スキー場」もその1つだった。

 前の運営会社が倒産するという経緯もあり、集客のため『セールスポイント』が必要だった。そこで充実したスノーボードのパーク施設としての特色を出し、「今はマニアックでディープなスノーボーダーに来ていただいている。パークとしての評価では日本で常にトップ3に入る」(同代表)と胸を張る。

 次世代に競技を普及させるために、子供向けのスノーボードスクールを開設。さらに、アルツ磐梯で開催した子供向けのキャンプに、熊本県から遠路、キャンピングカーで家族とともに参加していたのが、小学生時代の鬼塚だった。

 小学生時代には、同地で行われた国際大会「日本オープン」でトップ選手の演技を目の当たりにし、それがプロを志すきっかけにもなった。「トップ選手が大きなジャンプを飛んでいて、私もいつかこうなりたいという夢を与えてくれた原点の場所」(鬼塚)。そして、同地で開催されたキッズ大会で優勝し、頭角を現した。

 プロスノーボーダーとしての原点とも言える同社に、ただ所属するだけではない。国内の練習拠点としてきた「アルツ磐梯」「猫魔スキー場」には、鬼塚専用の練習コースも設置予定という。14年ソチ五輪から採用されたスロープスタイルは、斜面に設けられた障害物を攻略しつつ、空中技の難易度や完成度を競う種目。これまで、国内には世界レベルの練習ができる施設がほとんどなかっただけに、鬼塚は「所属が決まったのもうれしいが、練習環境が整ったことがうれしい」と喜びの声を上げた。

 特に目玉となるのが、鬼塚側から強い要望があった20メートルの巨大なジャンプ台の設置だ。鬼塚は3位に終わった3月の世界選手権以降、新しい大技「バックサイドダブルコーク1080」に取り組んでおり、「今まで必殺技がなかったので、平昌五輪までに完成度を磨きたい」。海外選手は失敗を恐れず大技に挑戦しているだけに、自身もチャレンジを繰り返す練習環境が必要だった。空中技の成否がメダル獲得のカギを握るだけに、五輪直前期に世界レベルのジャンプ台を使える公算が立ったのは大きい。

 コースの建設、維持費などを合わせると数千万円規模の出費が見込まれるが「鬼塚選手の目標を達成してもらうためにもつくりたい」と星野代表。「スノボは新しい競技なので、日本のスキー場はなかなか選手に練習環境を提供していなかった。特に20メートルのジャンプ台は、つくってもお客さんは利用しないので(設置は)難しかった。私もフリースタイルスキーをやるけど、あの高さは恐怖感がある。選手専用になるが、他にも練習したい選手がいれば使ってほしい」。さらに、鬼塚専用コースには見学ゾーンも設ける方針で「(地元の)会津の子供たちが来てくれればプラスになるので、情報発信していきたい」と胸をたたいた。

 同社初のアスリート所属契約について、同代表は経営戦略としてもこう語った。「営業面では評価しにくいが、アルツ磐梯と縁があり、プロモーション効果も期待している。それで採算が合うかは分からないが、大事なのは福島、会津でスノボの楽しさを学び、世界を目指そうと志を持ってくれた人が世界を目指してくれるということ。地元でもサポートしてくれる人を増やしてくれる。温泉地が復活していこうという力になる」。11年の震災、原発事故で投資家が撤退。以来、同社は運営だけでなく経営も行っているからこそ、星野代表の思いは切実だった。

 五輪に向けて企業とスポーツ選手との関係はさまざまだ。目的は違えど、双方にメリットのある“Win-Win”のタッグになれば、これ以上に望ましいことはない。(デイリースポーツ・藤川資野)

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