【競馬】7000勝支えた「的場ダンス」は真似すべきでない秘技

両手で7000勝のポーズを取る的場文=5月17日、川崎競馬場
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 好きな言葉は「一生懸命」、「努力」、「根性」-。まさにそれらを体現してみせた大記録の達成だ。“大井の帝王”こと的場文男騎手(60)=東京都騎手会=が17日の川崎競馬で、佐々木竹見・元騎手が記録して以来、約19年ぶりとなる史上2人目の地方競馬通算7000勝に到達した。王手をかけてから4戦目、しかも重賞レース(川崎マイラーズ=5番人気リアライズリンクス)で、自身の持つ最高齢重賞V記録を更新するオマケもつけた。

 福岡県大川市で、佐賀競馬の馬主でもあった父(運送業)の四男(7人きょうだい)として生まれた。すぐ上の三男・信弘氏が佐賀競馬の騎手(元・調教師)だったことから、同じ道を目指して中学2年の時に上京。羽田空港から乗ったモノレールの車窓から見た大井競馬場の姿に圧倒されたという。

 ところが所属した小暮嘉久厩舎は多くの名馬、名騎手を輩出し、「小暮学校」と称された名門中の名門。当時は赤間清松、松浦備、高橋三郎といったトップジョッキーがそろっていたため、新人にレースでの乗り馬が回ってくるはずもない。

 さすがに腐りかけたが、長兄からの「一人前になるまで九州の土を踏むな」のひと言に奮起。持ち前の負けず嫌いの性格にも火が付いた。人一倍の努力を重ねて、デビュー5年目、21歳の時にヨシノライデンで待望の重賞初制覇(77年アラブ王冠賞)を果たすと、少しづつ周囲からの信用も得て、流れを変えてみせた。

 全身を上下に激しく動かしつつ、腰を入れて馬を追いだす独特のフォームは、いつからか“的場ダンス”と呼ばれるようになった。「どうしたら馬を動かすことができるのか」と試行錯誤の中から自然と生まれたという。かつて船橋競馬の故・川島正行調教師は「両方の膝でピタッと鞍をはさんで、決してブレることがない。だから馬も伸びるんだ。誰にも真似できない、的場にしかできないもの」と評した。

 馬体に直接触れる太もも、くるぶしはまるで鋼のようにカチカチだ。7000勝の先輩・佐々木竹見氏は「腰に負担もかかるし、決して馬にとっては良くないフォームだけど、それで結果を出している。彼にしかできないものだね。でも、若い人はあまり真似しない方がいいな」と苦笑いしつつも評価した。

 83年に大井競馬のリーディングに就くと、85~04年まで20年連続でトップに君臨。02、03年には全国リーディングにも輝いた。これはあくまでも当時のウワサだが、あまりにも勝ち過ぎるため、レース中、勝負どころで誰かが「的場が来たぞ~!」と言って、進路をふさいでしまったことも度々あったとか!?

 とはいえ、大きなケガも数多く経験した。07年には落馬事故で脾臓(ひぞう)を損傷し生死の境をさまよったこともある。それでも2カ月ほど休んだだけで復帰した。40歳を過ぎた頃からは徹底した自己管理と、惜しまない努力で肉体を鍛え上げた。それらにあるのは、やはり「一つでも多く勝ちたい」(的場文)という勝負への執念だ。それは還暦を過ぎた今でも少しも変わっていない。

 6000勝を達成した時、「もう限界。だけど、ファンの皆さんが期待してくれているうちは辞められない」と話していたが、それから7年、さらに“1000”の勝ち星を積み上げた。想像を絶する精神力の強さは見習うべきものだが、そう簡単にはいかない。そして何よりも馬乗りが好き。「60歳を過ぎて人に元気を届けられるのはうれしい。まだまだ頑張るよ」と気を吐いた。珍しいことに、ゴールの瞬間に何度も右手を挙げてのガッツポーズ。それが全てを象徴しているようだ。

 さあ、次は桑島孝春・元騎手の持つ4万201回の騎乗記録(7000勝達成時に3万9350回)と、前述の佐々木竹見・元騎手の持つ国内最高峰・地方競馬通算7151勝がターゲットになる。「記録は破られるものだから。目標があるから頑張れる。大したものだ。早く破って欲しい」と佐々木竹見氏。さらに地方競馬界の七不思議とまで言われる東京ダービー制覇だ。過去35度挑戦して2着が9回を数えている。

 「宿題の一つは達成できた」ものの、まだまだ多く残っている。「馬に乗らなくなったら、ただのおじさん」と常々話しているが、「ただのおじさん」にはまだ当分、なれそうにない。22日から開催中の地元・大井競馬。24日には「デイリー盃大井記念」でケイアイレオーネの手綱を取る。自身の持つ重賞最高齢V記録更新とともに、これまた南関東同一重賞Vの自己記録更新(10勝目)が懸かる一戦だ。

 「一生懸命」、「努力」、「根性」-ありきたりの言葉にも映るが、43年余のジョッキー人生で常に実践してきた者が言うから美しい。「赤・胴白星散らし」の勝負服は、まだまだ躍動することを止めない。(デイリースポーツ・村上英明)

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