【芸能】ザコシショウの計算と緻密さ

 6日に行われたピン芸人日本一決定戦「R-1ぐらんぷり 2016」は、42歳のベテラン芸人・ハリウッドザコシショウが圧倒的な強さで制して幕を閉じた。

 似ているか否かを度外視した「誇張しすぎたモノマネ」は、木村拓哉、近藤真彦、長渕剛…と、ある意味“タブー”な存在に対しても容赦なし。とにかく勢いとパワーで笑わせ倒したザコシショウだが、その裏には想像以上に緻密な計算があった。

 1992(平成4)年にNSC大阪校に11期生として入学し、お笑いコンビ「G★MENS」を結成したが、02年に解散。そこから漫画家転身にも失敗し、ピン芸人として再出発した。だが、関係者が「決してメンタルが強い方ではない」と評するだけに、当初は「ブルブル震えて、ネタが出てこなくて…」と、ピン芸に苦しんだ。

 3年ほど前から、過去に同期のケンドーコバヤシと行っていた「モノマネ対決ライブ」のネタを盛り込み始めた。だが当初は「3分の中に、モノマネを3個ぐらいしか入れてなかったんです。コンテストを甘く見てて、それで受かるだろうと思ってたらまったくダメ」と、すぐには実らなかった。

 そこでザコシショウは、改めて他のピン芸人を研究。「他の大会とか見たら、ボケをたくさん入れ込んでるですね。コンテストは、決まった時間の中でどれだけの数の笑いを取れるかというところだと思うんですよ。だからモノマネをたくさん入れたんです」と規定時間に8本ものモノマネを詰め込んだR-1のネタを説明した。

 一見、ムチャクチャに見えるネタのチョイスも、あくまで計算ずくだ。「時事ネタも入れた方がいいと思って、(号泣元県議の)野々村議員とかもいれました。コアなものまねばかり入れすぎると客が離れていくんで、わかりやすいものも必要かなと」。実際、R-1のネタで最も大きな笑いを生んでいたのは、野々村元議員のモノマネだった。

 ネタ自体だけではない。ザコシショウの戦略は“外堀”からスタートしていた。動画投稿サイト「Youtube」や自身のツイッターでモノマネネタを紹介してきたことに触れ、「なぜやったかというと、今年のR-1で予選を勝ちたいがために、世間の目をこっちに向けたかったんですよね」と明確な目的を明かした。

 効果はてきめんだった。「有吉(弘行)くんとか宮迫(博之)さんとかがおもしろがってくれて、リツイートをしてくれたので、その画像に対して何千リツイートとかあったんです。予選で見に来る人も、俺のこと知らないっていう方があまりいなかったんじゃないかと。勝ちたいがために、売名でやったんです」。すがすがしいまでにあっさり「売名」というワードを口にしたが、もちろんこれも、それが許されるキャラだという“計算”のなせる業だ。

 念願の決勝進出が決まった後も準備に余念はなかった。「記者会見から決勝まで1週間ぐらいあったんですけど、エゴサーチ(自分の名前を検索)をしまくったんです。自分がどう思われているかを知りたくて、いろんな意見を拾ったんです」と万全に対策したことを明かした。

 ザコシショウの計算は衣装にまで及んでいた。「去年は白ブリーフで出たんですよ。それで3回戦で落とされたので、ちょっと汚らしかったのかなと」と振り返り、今年の黒パンツスタイルを「これはメディア対応なんです」と言い切った。

 さらに「裸芸人と言われるんですけど、裸は面白がってやってるわけじゃないんです。モノマネをやるにあたって、一番動きやすい格好がパンツ一丁だったんですね。それでブリーフでやってたんですけど、受け入れられなくて、プロレスパンツでやってみようかなと思ったら、3回戦を通ったんで、これだったんだ!って」と話した。

 「ギリギリのネタ」を連発するスタイルのザコシショウは、一歩間違えれば本当にわけがわからないまま終わってしまうタイプ。今回のR-1では、すべての計算が見事に合致した結果が、圧倒的な笑いにつながったと言えるだろう。

 とはいえ、あくまで私見だが、今回のR-1の結果にはいささか懐疑的だ。ネタの面白さよりも全体的に「見た目」と「音」による“脊髄反射的”な笑いが優位に立っていた感がぬぐえない。

 ダウンタウン・松本人志がツイッターで「R-1は人を笑うかネタを笑うか。今年は人やったね」と評したが、まさにその通りだったと思う。もちろん、その笑いを否定はしない。だが、ネタには無限のレパートリーがあっても、人のパターンはそう変わらないだけに、昨今目立つ「一発屋芸人」の製造につながりはしないか…という見方は、穿ちすぎだろうか。

 その意味では、今回の決勝で最も「2本目が見たい」と思わされたのは、おいでやす小田だった。出番はハリウッドザコシショウの次。スタジオからお茶の間までが“ザコシワールド”と化した直後に、正統派の1人ボケ&ツッコミで十分に笑いを取った。彼もまた、芸歴14年の苦労人。次なる挑戦に期待したい。(デイリースポーツ・福島大輔)

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