防御率0・00の剛腕が1軍から消えた

 プロ野球の開幕メンバーが午後3時に登録された25日、京セラドーム大阪で阪神の全体練習を見ていて、ふに落ちないことがあった。なぜ、この場に彼がいないのだろう…。

 昨秋の宮崎フェニックスリーグ(教育リーグ)で好投を続け、今春のキャンプから、練習試合、オープン戦でめざましい結果を出し続けた育成枠の伊藤和雄投手(24)が、開幕前最後のオープン戦、21日からのオリックス3連戦を前に、1軍本隊から姿を消してしまった。

 和田監督は20日、「良い、悪いだけではなく、チームのバランスを考えないといけない。これからの3試合(オリックス3連戦)を見ながら、総合的に判断します」と説明していた。それだけに、チーム内からも「なぜ」の声が聞こえてくる。

 11年のドラフト4位右腕伊藤和は今春、2軍主体のキャンプで実戦6試合に登板し、14イニングで23奪三振。文句なしの成績を挙げ3月7日に昇格すると、1軍のマウンドでも進化を証明した。オープン戦3試合で4イニングを投げ8奪三振、無失点。実戦防御率は0.00。インパクトのある数字で新星の誕生を予感させた。

 昨季130キロ台半ばだった直球は最速147キロまで上昇。ある2軍捕手に聞けば「2軍の投手のなかでは、レベルが違うという意味で浮いていましたよ」という。1軍の捕手陣からも「カズの真っすぐは、エグイ」と絶賛の嵐。先発ローテーションの枚数が当初の想定を下回り、中継ぎ陣を充実させたいはずの阪神が、なぜこの戦力を1軍に欲しがらないのか。

 古葉竹識監督率いる東京国際大から初のドラフト指名を受けた伊藤和雄は、慶大卒のドラフト1位、伊藤隼太と同期。昨季は右肘の故障などで2軍生活を送り、昨年11月に育成選手として契約を更新。背番号は17から117になった。故障があったとはいえ、わずか2年での育成「降格」は異例のこと。が、それ以上に、結果を残した者に対する「公平な評価」という観点から、「支配下にしない理由がよく分からない」という疑問が今、他球団の関係者からも数多く挙がっている。

 伊藤和は「競争」の舞台でアピールに十分な「数字」を残した。11月に育成契約を結んだ選手が、3月に再び支配下登録されることを妨げる制度、規約は存在しない。極端な話をすれば、ルール上、翌日に再登録しても問題がないのだ。今季の阪神は登録枠にも余裕を持たせてある。

 一度断を下した選手を、わずか3~4か月で昇格させることが「体裁」に触れる‐そんな理由であるはずはないだろう。仮に純粋な競争原理の弊害になるような理屈が球団内に混在し、貴重な戦力を“温存”することがあるとすれば、それこそ悲劇というしかない。

 球団首脳に聞けば「今、協議中です」という。「時期尚早」という解釈でいいのだろうか。伊藤和はウエスタンの開幕戦にも出場せず、現在、2軍施設の鳴尾浜で調整を続けている。球団関係者によると、古傷は問題なく、新たな故障もしていないそうだ。カズの「えぐい」速球を一日も早く、本番のマウンドで見てみたい。

(デイリースポーツ・吉田 風)

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