【集中連載】オレが村田だ!(下)

 村田の歴史的快挙によって、東京五輪バンタム級金メダリスト・桜井孝雄はその存在が一躍、クローズアップされた。桜井は今年1月10日、食道がんのため70歳で死去。3月3日、千葉・船橋で営まれた『送る会』では村田に夢を託す声が上がった。

 日本プロボクシング協会(JPBA)の大橋秀行(47)も送る会に出席。「桜井さんに、村田君が五輪で戦う姿を見てもらいたかった。東京五輪は僕が生まれる前年ですからね。それだけの時間を要して村田君が現れた」。大橋会長も専大時代に84年ロサンゼルス五輪出場を逃してプロ転向。WBA、WBC世界ミニマム級王者となる。

 大橋は10年に会長就任。日本アマチュアボクシング連盟と協力関係を築き、アマ選手をプロのジムに迎え入れた。村田は都内のワタナベジムに出稽古。WBA世界スーパーフェザー級王者・内山高志(32)直伝の左ボディーは、五輪本番でも相手のスタミナを奪う必殺技となった。帝拳ジムでは、総合格闘家から転向した1階級上のスーパーミドル級・三浦広光(30)と拳を交え、海外の大型選手対策を体で覚えた。

 桜井が東京五輪後にプロ転向した際に「金メダルを金(かね)で売るのか」と批判の声もあったが、今は確執を越え、プロとアマの垣根はなくなりつつある。村田はその象徴的な存在。JPBAは村田とバンタム級銅メダルの清水聡(26)を表彰する方針。アマ選手の対象は異例だが、それも時代の流れだ。

 村田は「桜井さんは金メダルを取られてからの人生が素晴らしかった。僕が金を取っても桜井さんには並べない。これからの人生が僕の価値。恥じないように生きていくだけ」。アマだ、プロだという次元を既に超えている。「アマがプロより下とは思わない。五輪選手を育てることが金メダルよりも世界王者よりも価値がある」。時期はともかく、村田は指導者の道を進むだろう。

 プロとアマ雪解けの時代。その中心にいるのが、男、村田だ。=敬称略=

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