「星組みんなの力で人気作に」出演作100本越え 元宝塚歌劇トップ安蘭けい、芸能生活35年を振り返る…舞台人生の転機になった作品とは?
元宝塚歌劇団星組トップスターで、現在舞台作品を中心に活躍する滋賀県出身の女優・安蘭けい。1991年月組公演『ベルサイユのばら -オスカル編 -』で初舞台を踏み、宝塚時代から今に至るまで、100本以上の舞台作品に出演。そして今年2026年に、芸能生活35周年を迎えた。
直近では、9月21日に千秋楽を迎えたミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』で、柿澤勇人と吉沢亮がWキャストで演じた主人公エヴァンの母親ハイディ役(堀内敬子とWキャスト)を熱演。宝塚時代からのファンはもちろん、「安蘭さんかっこよすぎる」「安蘭ママにドはまり」「もっと歌聞きたい!」と好評を博し、新たなファンを獲得した。
今回は、そんな安蘭に、宝塚時代からゆかりの深い「梅田芸術劇場」(大阪市北区)でインタビュー。宝塚時代を含めた芸能生活35年間を、過去の出演作のエピソードとともに振り返る。直近の出演作ミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』や、次回出演の日本初演のミュージカル『FOUR MINUTES -4分間のピアニスト-』(以下『FOUR MINUTES』)などについても、じっくり語ってもらった。(取材は2026年9月に実施)
◆出演作は100作越え!今明かす『スカーレット・ピンパーネル』初演秘話--芸能生活35周年おめでとうございます。この35年間ですごい本数の舞台に立たれてきましたが、その中でご自身の転機となった作品はありますか?
なんだろう、ひとつに絞るのは難しいですね。でも、やっぱり誰もがおっしゃってくださるのは『スカーレット・ピンパーネル』(2008年星組公演)ですね。「主題歌の『ひとかけらの勇気』がすごく好きで、ずっと聴いています」とか、まだ今でも言われたりするので。そういう意味で、私の芸能人生の中で、かなり大きな存在です。
--今も宝塚の後輩のみなさんが、様々なシーンで好きな曲です、と歌われていますね。『夢の音楽会』(CS放送『タカラヅカ・スカイ・スカイステージ』)でも、和希そらさんと歌われましたよね。
そうですね、『ひとかけらの勇気』、あの素晴らしい曲と出会えたこと。それは自分にとって、本当に大きかったと思います。
--前向きな気持ちになれるナンバーですよね。『スカーレット・ピンパーネル』公演当時の思い出はありますか?
そうだな、すごくいっぱいありますよ。あの時、『スカーレット・ピンパーネル』って、そんなにブロードウェイで流行ってないっていうか、上演はしていましたけど、そんなロングランではやっていないし、評価が高い作品じゃなかったそうです。私もブロードウェイに行ったとき、観ようと思った作品じゃなかったし。
でもそれをやるって聞いた時、私はずっとブロードウェイ作品に挑戦したかったので「念願の大作の上演が決まって、すごく嬉しい!やった~!」と思ったんです。でも演出の小池修一郎先生からは、「これは難しい作品だ」と、かなりハードルを上げられましたね。今思うと、わざとだったのかな、分からないですけど。
--実はそんなスタートだったんですね。
ファンの人たちも、どんな作品なのか分からないからだと思いますが、実際に発売が始まっても、そんなにチケットの売れ行きも良くなかったようで。でも、公演の初日があいた途端に、バーって跳ねるようにチケットが売れて、立ち見にも、大勢お客様が並んでくださって。嬉しかったですね。
--当時の動員記録にもなり、再演が続く人気作品になりました。
そうなんです。チケットがすぐに売り切れる作品っていうのも、それはそれでいいんですけど、そうじゃない作品もある。正直そんなに期待されてなかった作品を、自分たちの力で、良い作品に持っていった、っていう感覚がありましたね。星組のみんなで一緒に作り上げたことを、当時のみんなもきっとすごく誇りに思っていると思います。だから思い入れがありますね。
--自分たちの力で人気作にした、というのが大きいですね。安蘭さんは、主人公パーシーだけでなく、退団後にヒロインのマルグリットの役も経験されました。
そうです、再演もしました。でも、なんであんなにブロードウェイではウケなかったんだろう?いやでも、ああいう痛快な作品って好きですよね、みんな。日本で言うと『遠山の金さん』みたいな。最後にこう「目に入らぬか!」ってバッとやる。ああいう感じが、やっぱりすごくウケたのかもしれないですね。
◆ 上演から20年、今も星組生に歌い継がれる名曲『星を継ぐ者』--星組と言えば、『星を継ぐ者』という楽曲もずっと歌い継がれています。一緒に舞台に立たれてきた後輩の柚希礼音さん、紅ゆずるさん、天寿光希さん、輝咲玲央さん。さらに礼真琴さんも、2025年の武道館コンサート『ANTHEM-アンセム-』で歌われました。
あれは『龍星』(2005年 星組公演)という作品の主題歌だったんですけど、まだ私が星組トップになる前の主演作で、そのとき演出の児玉明子先生が「いつかトップになれるように」っていう思いを込めて、作ってくれた曲なんですよ。
『星を継ぐ』=『星組のトップになる』っていう意味で作ってくれたので、後で無事にトップになったから本当に良かったんですけども。そうやって応援してくれた先生に、今もすごく感謝しています。
--安蘭さんにとってもはやり大切な曲なんですね。
実は、今度開催する 35周年のライブ『Cherished Moments』(10月9日 ビルボードライブ大阪)でも、この曲を歌う予定で、私もすごく楽しみにしています。ちょうど「星を継ぐ」という歌詞なので、星組の子たちが代々歌ってくれているのも、すごく嬉しいですね。
◆ 「やんちゃなところが似ているみたい」元月組トップ・瀬奈じゅんさんと2作連続共演--宝塚時代の仲間と言うと、直近で出演された『ディア・エヴァン・ハンセン』で一期違いの瀬奈じゅんさん(元月組トップスター)と共演されています。ミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』から2作連続になりますが、久しぶりに長くご一緒されていかがですか?
本当に、むっちゃ楽しいです!!宝塚出身の方たちと共演する機会はありますが、年齢や学年がちょっと離れてることが多いんです。ここまで近い学年で、役どころもよく似ていて同じ母親を演じているというのが、やっぱり大きいのかなぁ。
なんか、あさこ(瀬奈)とは本当に同志みたいな関係です。組が違っても、トップをつとめたのが同じ時期で、世代も近くて、同じ時代を一緒に歩んできた。だから「言わなくても、わかる」っていうところがあって、ツボが似てるっていうのかな、そういう感覚。
それこそ当時は、舞台上でいろいろと遊んだりとか。もちろん、今そういうのはできないですけど(笑)そういう、やんちゃなところも、お互い似ているみたい。
--あの頃はトップスター同士、現在は母親役同士ですね。
役柄は変わってきたけど、今でもあの頃の感覚が残っていて、今本当に楽しいです。宝塚時代の話ももちろんしますが、例えばあさこには、実際にお子さんもいらっしゃって、その思いとかも聞いたりしています。母親としてしっかりと子育てをして、お仕事もして、っていうあさこを、私は本当に尊敬しています。
◆『ディア・エヴァン・ハンセン』で超ロックなママ役、次はこれまでの最高齢81歳に挑戦--その瀬奈さんたちと共演のミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』で安蘭さんは、冒頭のシーンでは「大丈夫…?」という印象ながら、とてもあたたかいお母さんを演じられました。
確かにそうですね。エヴァンのお母さんハイディは、本当の最後の最後に、全部かっさらっていくような…そんな役です(笑)
--そんなアメリカンでロックなママから、次回作の『FOUR MINUTES』では、ドイツの81歳の厳格なピアノ教師・クリューガーのお役ということで振り幅がすごいですが、役作りのイメージはありますか?
ほんとにね、役作りはかなり変わってきますね。年齢もずいぶん違いますし、『ディア・エヴァン・ハンセン』と『FOUR MINUTES』を比べると、明と暗。動と静という感じのイメージです。
ハイディは本当に活動的でアクティブで、ポジティブ、なのかなぁ…?息子という存在が、彼女の生きがいで、守っていかなければいけない。絶対的な存在。自分の息子を育てることと、キャリアを積み重ねることに、情熱を傾けている。それは全て息子のためだけど、空回ってしまう…。結果、息子のことを見られていない。見ているつもりが、息子には届いてなかった、というところがありました。
--確かに、息子に対する愛情をすごく感じました。
でも、次に演じるクリューガーは、本当に孤独で守るものが何もない。生きていくための彼女のエネルギー、いわゆる『生きがい』的なものが、何なのかっていうところが、まだ私も分かってなくって。ただ生きていて81歳なのか、何か追い求めて 81歳なのか…で大きく違うのかなって今は思っています。
彼女の中に、かなり大きなトラウマというか、暗いものを抱えていて、そこに囚われているのかもしれない。物語の舞台が、第二次世界大戦後を経た現代のドイツということで、国のこともあるし、時代もあるし、私にはなかなか想像しづらい生き方だなと思うんです。絶対に実体験できないし…。
--年齢も、設定も、実際に体験はできないですよね。
例えば、お母さんの役だったら、まわりの息子を持っているお母さんとか見て「こういう感じか!」と参考になる方がいるけど、今回のクリューガーについては、本当にいろんな本を読んだりとか、映画とか観たりとかしないと、なかなか参考になる人がいないんですよね。戦争で傷ついて、大きなものを抱えて、とかそういうことを考えると。そういう意味でも、難しい役です。
◆ 安蘭けい×ピアノ…懐かしいサヨナラ公演、子ども時代の思い出も--安蘭さんのこれまでの高齢者のお役といえば、先ほどお話にでた『スカーレット・ピンパーネル』の「グラパン」(パーシーが変装する謎の老人)という意見もあります。安蘭さんがピアノ教師を演じられると聞いて私が思い浮かべたのは、宝塚の退団公演『My dear New Orleans(マイ・ディア・ニューオリンズ)-愛する我が街-』(2009年上演)のジョイ・ビーがピアノに向かう姿です。
あ~ピアノ繋がり!ピアノが共通点ですね、懐かしい!でも私今回そのイメージは出てこなかったな(笑)
あのとき(『My dear New Orleans」)は茶色いピアノでしたね。形もアップライトピアノで。(『FOUR MINUTES』のポスターを指さしながら)こっちは、舞台でもグランドピアノで、色も黒い感じじゃないのかな?
--確かに『My dear New Orleans』で木目調のピアノを弾いて歌われていましたね。ちなみに安蘭さんご自身はピアノを弾かれるんですか?
ピアノは学生時代に、宝塚音楽学校の授業で。あと、子どもの時代から習わされていたんです。
--あんまり自主的な感じじゃなく…?
そう、椅子に座っているのが本当に嫌だった。ずっと、じっとしてるいるのも無理で。
--それは今もですか?
いやもう、今は座りたい(笑)
でも子どもの頃は、それはもう本当に落ち着きがなかったんで、ああいうピアノの授業とか、あんまり好きじゃなかったんです。「だったらもう外で遊びたい!」みたいな子どもでした。でも今思うと、ちゃんとあのとき習っておけばよかったな、っていう風に思っていますけど。
◆ 「その年齢に見えない!」と言われる秘訣は、「新しいチャレンジを続けること」いま話をしながら思い出したのは、以前ミュージカル『MITSUKO』(2011年上演)で演じた青山光子。晩年の60代まで演じたんですが、この役は、すごく歳を取るにつれて頑固になっちゃって、最後は本当に孤独の中で亡くなるんです。
子どもが7人いて、3人には看取ってもらえるけど、あと4人はもうみんなバラバラになっちゃって…。っていうのを、思い出しましたね。孤独になっていて、子どもたちに対しても素直になれない、ちょっと偏屈なおばあちゃん。「まさにそんな感じ!」ということではないんですけど、年齢重ねて、閉鎖的な人間になっていくのかなと、イメージしました。
--今まで経験したことのない年齢ですもんね。
今でも思うんですよ、今55歳ですけど、だんだん子供の頃より、いろんなことを経験してきた分、やっぱり臆病になってきている。やる前から自分で「どうせ、こういうもんだろう」って、決めつけてしまったりとか。そうすると、行動範囲が狭くなってしまうんですよね。
私は歳を重ねるっていうこと、そういうことなのかなって思うから、なるべく新しいことにチャレンジするようにしています。私は幸い、すごくなんでも興味津々な人間だから(笑)すぐ『なんだろう?なんだろう?』って思って、行ってみたくなるんです。
年齢を言うと、『そんな年齢に見えない!』って言われたりするんですけど、自分の中ではそういうところが要因なのかなと思っています。
--以前のインタビューでも、新作に挑戦することに、とにかくワクワクする、みたいなお話をされていました。舞台が本当にお好きなんですね。
もう本当に舞台が好きだし、次の『FOUR MINUTES』かなりワクワクしています!
--そして今、年齢のお話も出ましたが、10月9日、お誕生日おめでとうございます。
はい、ありがとうございます。喜んでいいんですね(笑)
--この1年こんな風にしたいとか、何かこれやってみたい、とかありますか?
え~と、それが特にないんだよなぁ…。私は、本当に新しいことが好きなんですけど、幸い新しい仕事が毎回あって、新しいものに次々に出会うので、そこで自分の欲求が満たされているのかな、って思います。
特に今年は本当に恵まれていて、仕事が続いているので、ゆっくり旅行にも全然行けていなくて。旅行に行けたとしても、ミュージカル観に行ったり、そういうことも兼ねて、みたいな。そうだな、今度はどこかリゾートに!仕事から離れたところにも行かないとね!
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次回作、ミュージカル『FOUR MINUTES -4分間のピアニスト-』は、今回インタビューで登場した宝塚時代の思い出の作品のひとつ『龍星』と同じ「梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ」で上演される。久しぶりに立つこの舞台で、安蘭はじめとする実力派ぞろいのカンパニーが、新たに作り上げる作品に期待がかかる。
『FOUR MINUTES -4分間のピアニスト-』の大阪公演は、2027年1月10日、11日に上演。現在チケット好評発売中。詳細は公式サイトで確認を。
撮影/Ayami
取材・文/Lmaga.jp編集部
(Lmaga.jp)
