ばけばけ脚本家も「銀二郎ロス」…ヒロイン前夫をただの「当て馬」にしなかった理由は?寛一郎の演技についても聞いた
連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合ほか)の第4週「フタリ、クラス、シマスカ?」では、トキ(高石あかり)と銀二郎(寛一郎)の別れが描かれた。トキは、出奔した銀二郎を東京まで追いかけてきたが、もう同じ道を歩むことはできないのだと、ふたりは悟る。
旧鳥取藩の下級武士の家から松野家に婿入りした銀二郎は、司之介(岡部たかし)が作った莫大な借金を1日でも早く返そうと、昼は荷運び、夜は遊郭の客引きに内職と、身を粉にして働いた。
しかし、格にこだわる勘右衛門(小日向文世)から「しごき」を受け、客引きの仕事を「家の格が下がる」となじられ、心身ともに限界を迎えた銀二郎は置き手紙を残して出奔してしまう。
■ 朝ドラ史上最も愛された「ヒロインの前夫」明治の家父長制に翻弄された銀二郎の、真面目で誠実な人柄と、トキへのまっすぐな愛情が伝わってきた。『ばけばけ』のオープニング映像では「物語の定められた未来」としてトキとヘブン(トミー・バストウ)の幸せそうな写真が映し出されるが、それでも、なんとかして銀次郎とトキを一緒にしてやれないかと願った視聴者は少なくないだろう。
この、朝ドラ史上最も愛された「ヒロインの前夫」、銀二郎というキャラクターの生みの親、脚本家のふじきみつ彦氏にインタビューし、彼を決してただの「当て馬」にしなかった、愛情あふれる作劇について聞いた。
■「史実の小泉セツは身投げしようと…」銀二郎とトキのエピソードの成り立ちについてふじき氏は、「銀二郎は、僕にとって大好きなキャラクターのひとりです。『没落士族の家の婿に入って、大舅と反りが合わず、極貧生活に耐えかねて出奔する』ということは、小泉セツさんの前夫・前田為二さんの史実として残っています。ただ、資料を読んでも、ふたりの結婚生活に関してはほとんど書かれていないんですね」と話し、こう続ける。
「実際セツさんも出奔した為二さんに会いにいくのですが、史実では『絶対に松江には帰らないし、もう来てくれるな』という、為二さんの強い拒否感があったようです。帰り道でセツさんは『もう松江には帰れん、生きていけん』と、川に身投げしようとしたといいます。でも史実そのままだと、あまりにも可哀想で」。
■ ふたりのなかに一瞬でも、幸せな時間を史実にはない、フィクションならではのエピソードについて、ふじき氏は「銀二郎はすごく愛情深くて真面目な人で、トキもまた、彼の愛情に応えている。たとえその先、別れてしまうとしても、『銀二郎とトキがずっと幸せでいてくれたらいいな』と思ってもらえるように作りました」と作劇の意図を明かした。
さらに、「お見合いのあと、ふたりで清光院に行って、互いに怪談が好きであることがわかりました。トキが初めて『自分が好きなものを一緒に好きになってくれる人』に出会えた嬉しさというものを僕は台本に書きましたし、映像でもそれがとてもよく表現されていました。
結婚後、ふたりでしじみ汁を飲むシーンなんかも、すごく幸せそうでした。銀二郎が松野家に婿入りしてからは辛いエピソードが続くのですが、ふたりのなかに一瞬でも、幸せで楽しい時間が流れていてくれるといいなと思って書きました」と語った。
■「本当は寛一郎さんが演じる銀二郎をずっと見ていたい」第4週、東京でのふたりの別れのターンについても、特別な思い入れがあるというふじき氏。
「東京で、銀二郎とトキがあのお見合いの日以来、初めての『ランデブー』をするシーンが僕はとても好きです。夫婦になったのに、松江にいる間はほとんどふたりだけの時間が持てなかった銀二郎とトキが、東京で初めて夫婦らしい時間を過ごすことができた。結局ふたりは別れることになってしまいますが、一瞬一瞬、お互い好きだった、けれど別れるしかなかった、というふうに描けたらいいなと思って、銀二郎のパートを書きました」とコメントした。
さらに、銀二郎を演じた寛一郎の印象をたずねると、「銀二郎の役柄もあるのでしょうけれど、寛一郎さんはわりとポーカーフェイスというか、暗い表情にしろ明るい表情にしろ、あまりわかりやすく出さないタイプの俳優さんなんですよね。台詞回しも、そんなに大きく抑揚をつけるタイプではない。そこがすごく魅力的で、僕は大好きなんです。本当は寛一郎さんが演じる銀二郎をずっと見ていたいぐらい。素敵な銀二郎を演じてくださって嬉しいです」と絶賛した。
トキは単身松江に帰り、銀二郎は東京に残ったが、この先の彼の人生にも光あらんことを祈るばかりだ。
取材・文/佐野華英
(Lmaga.jp)
