お笑いコンビ・フースーヤ、魂込める「名刺代わり」の出囃子

お笑い芸人が舞台へ上がる際に流れる音楽「出囃子」。芸人にとっては自分たちの登場を知らしめる重要なテーマ曲、また舞台に立つエンジンであり、それぞれに思い入れがあるはず・・・。

そこで「よしもと漫才劇場」(大阪市中央区:以下、マンゲキ)所属芸人から、曲に込められた想いや経緯などを深掘りする連載がスタート。マンゲキメンバーの兄貴的存在・スマイルの瀬戸をインタビュアーに迎え、8回目はギャグを連発しアップテンポで進める「新漫才スタイル」を確立した、フースーヤ(田中ショータイム、谷口理)に迫ります。

■「よりネタに入りやすく、僕らそのままの曲」(ショータイム)

瀬戸:明けましておめでとうございます! 清々しく明けましたね! そして新年一発目がフースーヤなんですけども。

谷口理(以下:谷口):やったぁ~! ありがとうございます!

瀬戸:これが出囃子に特化した連載やねんけど、ほんまにね、今までにフースーヤの出囃子がかっこいいっていう声は挙がってたよ。

田中ショータイム(以下:ショータイム):まじっすか! ちょっともう瀬戸さん!・・・冗談キツいっすわ!

瀬戸:そんな下手くそなんはいらんいらん!(笑) でも身内に言われるのはめちゃくちゃうれしいんちゃうん?

谷口:かなりうれしいっすね! でも合ってるな、とは自分らでも思います。ザ・クロマニヨンズさんの『ひらきっぱなし』(2010)って曲なんですけど。

瀬戸:この曲の後にはフースーヤが出てくるわぁ・・・。やっぱりこの曲は歌詞が決め手なん? 冒頭の「はじめから全開で行けるとこまで~」とか。

谷口:そうっすね、クロマニヨンズももちろん好きですけど、歌詞がバチハマりしましたね。僕ら若手でトップ出番も多いんで、ライブを盛り上げるっていう意味でも良いし。

瀬戸:これはどういった経緯で決めたの?

谷口:僕が元々ブルーハーツが好きで、クロマニヨンズもずっと好きで聞いてて。ショータイムにも何個か出してもらったんですけど。ほかはウルフルズの『バカサバイバー』とか・・・あとnobodyknows+の『ヒーローズカムバック』も言ってたな。

ショータイム:『NARUTO』の第2部のオープニングで、ナルトが少年時代から大人になって帰ってくるんですけど、そこで使われてる曲で。歌詞の内容的にもむちゃくちゃかっこ良かったんですけど・・・。

谷口:1番おいしい歌詞の「出れる!」ってなるとこまでがちょっと長かったんですよね。切り取りすぎても変なんなるし、それでいうとこの曲は完璧やったっすね。

ショータイム:僕の候補としては、サクラ大戦の『檄!帝国華撃団』。かっこいいんで、単独(ライブ)の出囃子にしていました。ネタを何個かするんで、出る曲をそれぞれ自由に決めてるんですけど、そのなかで。

谷口:2人ともアニソンが好きで、配信のない単独やったら出囃子を全部アニソンにしてたりしてます。

瀬戸:そんな単独の曲とかも結構話合うんやな! どっちかが中心で決めていくとかではなく。

谷口:片方がこれで! とかは特にないんですけど、一応分担はあります。客入れのBGMはショータイムに任せてるんですけど、こいつK-POPも好きやからめっちゃ流すんですよ。結構ジャジィーなK-POP流すから、マンゲキがでっかいバーみたいになってるときもあって(笑)。

瀬戸:ハハハ! ばっかばかしい漫才が今から始まるのに?(笑) でもフースーヤってバカな感じと、今風のオシャレな空気感も醸し出してるよね。

谷口:そうっすね。そのへんはショータイムに信頼おいてるんで。センスもあるし。

瀬戸:これまで話聞いてきて、出囃子にこだわるとき、逆に邪魔になってしまうって意見があるんよ。曲でハードル上げすぎるとかね。これでいうと「初めから全開で」って歌詞を聞いて2人が出てくるわけやんか。そこは関係なく?

ショータイム:なんでしょう・・・これ以外やったら出る意味ないというか。歌詞でハードルが上がったとしても全然いいです。僕らそういう人間だぞって分かってもらえたらそれでいいというか。

谷口:僕らの気の持ちようというか、例えば朝1発目の寄席とかでも、この曲聞いたらグッとなるんで。

瀬戸:それでいうと出囃子でフラットにして舞台に出たいっていう芸人もいれば、フースーヤに関しては説明書というか、フリになってるんか。

谷口:そうですね、とりあえず出囃子で名刺配って。

ショータイム:っていうのを分かってもらえたほうが、よりネタに入って来やすいんちゃうかなって。もうそのままじゃないですか(笑)。この曲以外やと、舞台に出ていくのがキツいかもしれないっすね。

■「ショータイムは『常にスキャンダル一歩手前の男』」(谷口)

瀬戸:今となっては唯一無二の芸風やけど、これはどうやって仕上げていったの?

ショータイム:高校も一緒でしたけど、特に大学時代にずっと一緒におって、そんときから谷口がふざけて俺がそれにチョケて・・・ずっとこんな感じでした。そっからNSCに入って、最初は喋くり漫才をめっちゃやろうとしたんですけど、板に付かなさすぎて(笑)。

瀬戸:えっ!? 喋くりでやろうとしてたんや。フースーヤも試行錯誤してたんや!

谷口:ナイツさんみたいな漫才目指してましたから。一歩も動かず。

ショータイム:で、途中で先輩に「お前ら2人の感じみてたらそのふざけた感じで漫才作ってみたら?」って言ってもらえて、そこから谷口の言うギャグに俺が乗っかる、みたいなのを続けてたら今の形になっていった感じです。

瀬戸:全然その時期知らんかったわ! 今のスタイルは何年目で仕上がったの?

谷口:仕上がったのは早かったです。1年目の夏前とか。

ショータイム:(NSC)現役生のときとかヤバかったですよ。こいつがフーッて息で僕のこと吹き飛ばして僕が袖に飛んでいったり、組み体操漫才とかやってました。マジで同期にもゼロ笑い(笑)。

谷口:当時僕らまだ神戸に住んでて通ってたんですけど、僕のマンションの子どもが遊ぶプレールームみたいなとこでネタ合わせやってて。子どもたちが集まってきてめっちゃ笑ってくれてたから「これイケる!」って思って、いざ授業でネタ見せしたらばりスベってましたね(笑)。

瀬戸:でもそっから先輩の助言の言葉もあって「素の自分ら」を出すことにしたわけでしょ。2人の形って今まで受け継がれてきた漫才の形と全然違う、フースーヤの形やんか。そこの葛藤とかはなかったの?

谷口:入りとしては「みんなと違うことしないと売れない」っていうのもあったから、NSC入って組み体操漫才とかもやりましたけど、正統派は無理だってことで勝負してるんで。もし新しい枠を作れたなら、それはもう万々歳ですね!

ショータイム:それこそ2人でギャグやったりふざけ合ったりしてた素の部分を漫才に、仕事にしたから、今プライベートでふざけ合うのがめっちゃ恥ずなってるんです(笑)。

瀬戸:オンとオフがない感じね。

谷口:でもコンパとか行ったらやるやろ?

ショータイム:あ、それはもうめちゃくちゃやる。関係なくやりまくる。

谷口:いろんな噂で話回ってくるんですけど、飲み会のこいつめちゃくちゃおもしろくないんですよ。ずっと一緒にいますけど、ショータイムは「常にスキャンダル一歩手前の男」ですよ。

瀬戸:ハハハ!(笑) ギリギリのラインいってると。

ショータイム:いや、誰がリアルフェイス状態やねん!

谷口:飲みにも行ったりしてますし、モテますから・・・。ほんでこいつ、この前ガーシーさんにさらされたんですよ!(笑)全然たいしたことじゃなかったんですけど。

ショータイム:マンゲキメンバーで初やと思います(笑)。

谷口:僕の聞いた話でいうと、合コンで女の子から「芸人やったらもっとおもしろいと思ってた」って言われて、こいつプッチーンと来たのか「今からお前ら腹くくれよ!」って場を静めてからボケて、ばりスベってたとか。腹くくれって言われて笑うやついないでしょ(笑)。

瀬戸:あの純粋なショータイムはどこいったんや・・・。ちょっと話脱線しますけどね、この前スマイルとフースーヤで、親子に漫才とかネタ合わせを教える『漫才ワークショップ』に参加したんですけど。僕らがいろんな親子にアドバイスしてるなか、急にショータイムがおらんくなったと思って周り見渡したら、1人で壁の方に突っ立って号泣してましたよね?

ショータイム:ちょっとやめてくださいよ!

瀬戸:「こんなに一生懸命ネタ合わせしてる親子の姿みて心打たれました」ってね。ほんまに号泣してたやん! 今言うけど、あれ仕事してないからな!

谷口:ギャラ払わんよ、そんな泣いてるだけのやつに。

瀬戸:あそこにいた人たちきっとショータイムのファンになったと思うんよ。そんでこの記事読んだら飲み会で女にスベり倒した話とか、スキャンダル一歩手前とか言われて。

ショータイム:最悪ですわ!(笑)

谷口:でも高校、大学と一緒にいて、ずっと変わってないですし、良い意味で友だちなんで。僕はショータイムのことめっちゃおもろいと思ってて、「あれやって!」とか言ったら今も全力でやってくれるし。

瀬戸:そこがスゴいよな。コンビ組んで7年目で、おもしろいことやり合えるって・・・昔から全力でバカやってくれるんや。ショータイムはどう?

ショータイム:谷口理という人間は・・・まぁ真面目っすよね、何に関しても。僕がちゃらんぽらんなんで、そこを全部しっかりしてくれてるというか、人間的にも結構真逆だと思うんです。

瀬戸:でもおもしろいと思うことは共通してるわけでしょ?

ショータイム:そうですね。僕らはマスターカードみたいな、丸が2つ重なって、ほんまは違う人間やけどおもしろいという部分が重なり合ってる・・・そういう感じです。ほんまにマメですし、事務的な作業も全部やってくれたりとか、こいつがおらなフースーヤ終わりですよ。感謝してます。

■「老けるだけおもろなる芸なんじゃないかって」(谷口)

瀬戸:フースーヤって最初の方は賛否とか絶対あったと思うねん。これ最高の褒め言葉やねんけど、「最強の小学生」みたいなことやってるやんか? これってほんまにおもしろい人じゃないとできひんというか。「俺らでも出来るんちゃうん?」って思われがちやけど、あの漫才って成立させられへんやん。

ショータイム:いやぁ、ありがとうございます! めっちゃうれしいです。

谷口:まじランドセルとか買いに行きましょかね? 今の瀬戸さんの言葉で目覚めましたわ。

瀬戸:いや「小学生」のところだけとらんでええねん! でもまだ全然見えてないかもやけど、いわゆる師匠になってもこの芸風は貫く予定ではある?

ショータイム:そうですね。この芸風を50、60歳になってこれやってるのが1番おもしろくないですか?

谷口:僕らって老けたら老けるだけおもろなる芸なんじゃないかって思ってるんで。ほかの芸人さんも「早くおじいちゃんなったお前ら見たいわ」ってめっちゃ言ってくれますし。あとは体壊れんようにってだけですね(笑)。

瀬戸:フースーヤの出番終わって袖見たらハァハァ言ってるもんね。ほんまに汗だくで、1本の漫才に命かけてるもんな。

ショータイム:それ、谷口だけなんですよ。最近めちゃ心配なんですよこいつ! 今までそんなことなかったのに、ここ1年くらいでネタ終わったら死にそうになってるんで。

谷口:そのうち4分の漫才で、3分15秒くらいで給水入れるかもしれないです。スーツの裏地のストローとか入れといて。

瀬戸:まぁフースーヤやったらありちゃう?(笑) ただそれを続けてお客さんにお金をいただいて成立させるっていう領域は誰にもできないから、素晴らしいね。ブレないというか、インタビューしてて思うけど、ほんまにずっと友だちと喋ってる感覚なんやろうね。

■谷口まさかの告白! 2023年は出囃子を・・・?

瀬戸:では最後にね、芸人さんにとって「出囃子とは?」っていうのを聞かせていただいてるんですよ。

ショータイム:なるほどー!そうっすね、出囃子とは・・・僕らの夢羽ばたくための滑走路ですね・・・。

谷口:こうやって飲み会でスベってるんですかね? めちゃ間あけてましたけど。僕は色々考えたんですけど、出囃子とは「出囃子」ですね。

瀬戸:ハハハ! 逆により深い、みたいなのいらんのよ!あとは新年1発目ということで、2023年の抱負も聞いといていいですか?

ショータイム:それはもちろん『M-1グランプリ』決勝進出ですよ!ストレートで!

谷口:やっぱそこですよね。あと僕的には、2023年は出囃子を変えよかなと。

ショータイム:ええええー!? お前今までの全部フリやん! なんなんこいつ!? ないってこれ以上の曲!

谷口:インタビューしていただいてなんなんですけど、変えようかなと、今思いました(笑)。

瀬戸:逆にすぐ2回目来るわ。変えたね変えたね!って飛びつくわ(笑)。ではそこも注目しておりますので、今年も1年よろしくお願い致します!

取材/瀬戸洋祐(スマイル)写真/岡本佳樹(舞台写真)

(Lmaga.jp)

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