朝ドラ「エール」を観て痺れた、説得力あるケレンの効いた演出とは

数々の映画メディアで活躍し、本サイトLmaga.jpの映画ブレーンでもある評論家・ミルクマン斉藤。映画の枠に収まらず多方面に広く精通する彼は、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)も注意深くチェックするという。この春スタートした『エール』について、第6週(5月4日~8日放送)を観て思うところを訊いた。

第6週「ふたりの決意」

案の定、兄弟の関係は最悪の局面に。

海外コンクールの入選と演奏会の成功(金は持ち逃げされたが)で意気揚々と実家に帰る主人公の裕一だが、家そのものが傾いているんだから彼に対する目は冷ややかそのものである。使用人の及川(映画『アイスと雨音』の田中偉登)まで「長男なのに勝手すぎる」とあからさまに造反の意気を示し、弟の浩二は公然と兄を「あいつ」呼ばわりする始末である。

前回でも書いたが、浩二は浩二で家を再建しようと必死で頑張っている。しかし本質的にディレッタント(編集注:変わったものに興味を持つ物好き)で、明らかに裕一びいきの父は、浩二の新提案を頭ごなしに打ち砕く。

裕一の才能が認められたことも「あれ努力なの? 好きなことして」と芸術的な煩悶についてまったく理解できないが、父は「過程なんてどうでもいい。結果がすべてだ」と一蹴する。

まあ、仕方ない。経済と芸術の乖離である(その後裕一はイヤというほど思い知らされるだろう)。しかも受賞した曲というのは一度も演奏されたことがなく、楽譜を解せぬ者にはワケの判らないただのおたまじゃくしの羅列にしか過ぎないのだ。楽曲に感じる感じない以前の問題である。

浩二は「兄さんが嫌いだ」とはっきり表明したうえで、「周りの愛を当たり前だと思うなよ。もっと感謝しろよ。俺にも関心持てよ!」と吐きつける。そして「家族の幸せを第一に考えてください」と、家の経済的基盤を支えてくれることになるであろう権藤家への養子縁組を念頭に説きつける。

それにしてもこのあたり、いわば悪役的なものになることを承知でネガティブなパワーをここぞとばかりに爆発させてみせる俳優・佐久本宝の存在感は大したものだ。

「天賦の才を得た者は現世など二の次三の次」

関内音との婚約についても母から反対され、恩師の藤堂からも「本気で何かを成し遂げたいなら、何かを捨てねばならない」と音楽留学を前提として、結婚と養子縁組を牽制される。

でもコレも仕方ないんだよねえ。浩二の言うことはもっともだけど、正直にありのままにいうと、裕一にはおそらく家がどうなろうがまったく関心がないのだ。

そのあたりの現世遊離者なりの苦悶を窪田正孝は絶妙にフォローしているのであるが、芸術とはデモーニッシュ(編集注:鬼神に憑かれたような超自然的な力)なもので、その魅惑に憑りつかれた、あるいはその天賦の才を得た者には現世のことなど二の次三の次になるのである。

音とのことにしても恋愛とはデモーニッシュなもので、しかも自分の芸術のミューズを彼女のなかに見つけたからには、現世のことなど二の次三の次で、もはや手放すことなどできやしない。

しかし基本的に「ずぐだれ」=「意気地なし」なところのある裕一は、そんなにドライに家族の行く末を見限ることができない。将来を諦め、音に離別の手紙を書いてしまうのだが・・・。

そこにコンクール主宰・エスター社からの通知が届く。世界不況により英国留学は取り消しになった、と。裕一の土台は根本的に崩れてしまう。

史実ではこの留学は有効であった。古関裕而は自らの意思でなぜか行かなかったのである。その理由としては、ドラマでも描かれているような実家の危機により早急にカネを稼がねばならなかったこと、金子=音との熱烈な恋愛・結婚が挙げられるようだが、そこんとこグイッとまとめて、時勢的にも不自然ではない留学取り消しに持って行ったのは巧いと思う。

「なんとテンポの速い1時間か」

いずれにしろ裕一=裕而がいっときの絶望に追い込まれたのは間違いなかろう。しかし離別の手紙を受け取った関内音&光子の母娘は黙っちゃいない。川俣の教会に逃げ込んだ裕一を探りだし追いかけていった音は、そこではじめて幼少期に出会っていたことを知り「運命の愛」を悟るのである。

史実ではないにしろ、ドラマとしては強度炸裂。「私、絶対あきらめんから!」の宣言どおり、音は裕一の実績を元手に大手コロンブスレコード(ま、クレジットにもしっかり「資料提供」と書いている通りコロムビアレコードですね)に裕一を売り込む。

そのディレクター/プロデューサーが廿日市誉。古田新太が演じてることからも「あまちゃん」の太巻さんを誰もが思い浮かべるはずのキャラで、それはそれですこぶる楽しい。最初に音に応じる部下のメガネ美女・加弥乃は元AKBらしいが、なんとなくハワード・ホークス映画における必要以上に美形な端役を思わせる。

まあ、それであっさりと契約を勝ち取るわけもないのだが、東京にやってきた光子がむちゃくちゃ硬い雷おこしに例えて言うとおり、「割れなきゃ何べんでも噛むの!諦めちゃいかん!」(やっぱ薬師丸ひろ子、かわいくて最高)に後押しされて再売り込み。折しも御大・小山田に直々「君んとこで契約してほしいんだ」と言われたばかりの廿日市は慌てて駆けつけ、裕一との契約を保証する。

ここまでで月~木曜の4回、1時間。なんとテンポの速いことか!でも性急な感はさほどない。しかしこの週の白眉は次の金曜に訪れる。

「この週の白眉は、金曜に訪れた」

すべてを諦めかけた裕一は、借りた傘を返しに権藤家を訪れる。そこで障子越しに祖母が、「あの子は跡取りさえ作ってくれればいいんだから」と言ってのけるのを聞いてしまうのだ。種馬か。

縁側に傘を放りだし、憤怒のあまりに降りだした豪雨が溜まった水たまりに倒れ(ここ俯瞰)、部屋に戻って泥まみれでハーモニカを吹く裕一。そこで実家に乗り込み、決然と「僕はこの家を出ます」と絶縁宣言するのだ。

とにかくこのドラマ、照明と撮影にエッジが効いてて巧い。やや強引にしろ、くだくだやるより説得力のあるケレンの効いた演出(この週の監督は松園武大)には痺れる。

裕一の繊細さ、傷つきやすさを心配し、安寧を一番とする母(菊池桃子も押しは強くないがいい演技だ)の思いやりを振りほどいて、東京へと彼は旅立つ。

駅には父が待っている。「俺、家族捨ててきた」という裕一に、「お前が捨てたって俺はお前を捨てねえ。ま、俺みたいになんな」と見送る父。ディレッタントな役が似合う、唐沢寿明らしいここ一番の見せ場であった。

しかもこの15分はまだ続きがある。東京に独り出てきた裕一と対面するや、自分から抱きついていく音(もう女性上位!)。コロンブスレコードとの契約。「喫茶バンブー」(竹取物語ね)の裏にある家を借りて、縁側でもうイチャイチャ。

いや、これくらいの推進力が欲しいのだ、朝ドラの前作とは真逆である。予想通り、木枯正人=古賀政男もすでに顔を出したし、演じるRADWIMPSの野田洋次郎は主演作『トイレのピエタ』ですでに普通の演技者では予想できないものを演じていただけにとても楽しみ。

【今週出てきた曲】

●ヴェルディ/歌劇「アイーダ」より凱旋行進曲(川俣に帰る裕一のバックに)

●メンデルスゾーン「歌の翼に」(音が湖で歌っていると“謎の男”にアドヴァイスされる曲)

●グリーグ「ペール・ギュント」より「朝」(川俣銀行の鈴木くんが婚約宣言するときに)

文/ミルクマン斉藤

(Lmaga.jp)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

関西最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(芸能)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス