元宝塚トップの一路真輝、病気を乗り越えポジティブに

昨年、芸能生活35周年を迎え、女優として数々の舞台に出演する一路真輝。人気ミュージカル『エリザベート』日本初演の「伝説のトート役」としても知られる、元宝塚歌劇団雪組トップスターだ。そんな彼女が11月10日、京都初のコンサートを開催。京都フィルハーモニー室内合奏団との共演で、宝塚時代のナンバーやミュージカルの名曲を幅広く披露する。歌と共に歩んできたこれまでの道のりなど、さまざまな話を訊いた。

取材・文・写真(人物)/小野寺亜紀

「トートの存在をわからせる、使命を感じていました」(一路真輝)

──京都でコンサート『一路真輝&京フィル シャイニング コンサート in 春秋座』を開催される、いまのお気持ちは?

京都は中学の修学旅行で訪れたときから憧れの場所で、宝塚歌劇団に入団後もよく哲学の道から銀閣寺まで歩いて湯豆腐を食べたり、「鴨川をどり」を拝見したりしていました。ここからパワーをもらって舞台に立っていた宝塚生活から20年、大好きな京都でコンサートをできる喜びを、歌にのせてお客さまに届けられたらと思います。

──コンサートの1部は宝塚時代のナンバーを歌われるのですね。

京都でのコンサートなら、私の心の故郷である宝塚の曲で、と選曲しました。せっかく京フィルさんとご一緒させていただくので、クラシックの曲は入れたいなと思い、レハールのオペレッタ『微笑みの国』の曲も歌います。この作品とのご縁で、ウィーン国立フォルクスオーパー管弦楽団さんとCDを作ったことがあり、いま考えると恐ろしいんですけど(笑)、同時録音で演奏の輪のなかに入って歌ったこともありました。

──今回もオーケーストラとの共演となりますが、いかがですか。

やはり同じ舞台上に指揮者の方がいらして、生の弦や管楽器の音が聞こえてくるというのは、気持ちがいいと言ったらおこがましいですが、とても貴重な経験です。このコンサートもずっと待ち望んでいたので、夢が実現してうれしいです。

──1部はほかにどのような曲を?

私にとってすごく大事な曲、『愛と死の輪舞(ロンド)』を歌います。これは『エリザベート』初演の雪組公演のため、ウィーンのスタッフがオリジナルで作ってくださったトートのナンバーです。今でも覚えているのですが、当時この曲のデモテープを聴いたとき、「ウィーン・ミュージカルにしてはポップスな雰囲気の曲だな」と思ったんです。でもそこに小池先生(同作の潤色・演出の小池修一郎)の歌詞が付いたら、トートの哀しみや、シシィ(エリザベート)をストーカーのように追い続けた理由、トートの在り方が詰まっていて、とても重厚な曲と感じるようになりました。

──小池先生の歌詞は、ロマンティックでもありますよね。

そう、宝塚の男役の魅力が詰まった詞に、小池先生は仕上げられるんですよ。「蒼い血を流す傷口は-」なんて詞は、さすがに軽い感じには歌えないと思いました(笑)。『エリザベート』を初めてご覧になったお客さまは、トートのことを「黄泉の帝王」とルキーニが紹介しても、「トートって何者なの?」と思いますよね。だからこの1曲でその存在をわからせないといけない、という使命を感じていました。

──現在宝塚歌劇団月組が、10回目の『エリザベート』を上演中ですが、そうやって作品が続いているのはうれしいものですか?

うれしいですね。トートは十人十色と言ったもので、10人目の方も全然違うトートだと伺い、やはりそれがこのように続く秘訣なのだなと思います。

──2部では女優としてのミュージカルナンバーになるそうですね。

宝塚に14年間いて、辞めてから20年以上経ち、間に少しブランクはありましたが、ほぼ女優のほうが長くなりました。そのなかで自分の代表作というと、これもまた『エリザベート』(2000年~2006年の東宝版初代エリザベート役)ですね(笑)。シシィの歌として『夜のボート』を入れました。あと、これも原点となった、宝塚退団後すぐの『王様と私』の曲も新鮮に歌えたら。また『レ・ミゼラブル』とは(出演の)ご縁はないのですが、やはり曲が好きなので、ファンテーヌの『夢やぶれて』は歌いたいと思います。

──『モーツァルト!』の『星から降る金』もですね。この作品は大阪では演じてらっしゃらないと。

博多と名古屋だけで、大阪でも東京でも出演してないのです。この曲はウィーンで観劇したときからとにかく大好き。何でしょう、ものすごく母性を感じるんですよね。でもとても体力のいる難しい曲なので、たくさん歌うときは選曲しないのですが、今回はせっかく京フィルさんとご一緒なので、歌えたらと思っています。

──この曲では「愛とは解き放つこと」など、子に対するような歌詞が出てきますが、ご自身も共感できますか?

はい、子育ての最終目標は子離れだと、あるお母さんから言われたのですが、とても共感できます(笑)。

「トップになれるとは思ってなかった」(一路真輝)

──実生活で母親になられて、舞台でも何かしら変化はありましたか?

よく結婚や出産などの人生経験が役立つと言いますが、演技力があれば母親役でも何でもできるはずなんです。でも「これは母になったからこそ湧きあがってくる感情かな」と思うときが時々あります。歌に関しても、年齢とともに、親になった自分を曲にのせていけたらなと、最近よく思います。

──歳を重ねていくごとに、歌も変化していくのですね。

『最後のダンス』(トートの歌)を、初演より20年後の『エリザベート スペシャル・ガラ・コンサート』で歌ったときに、自分でも全然違うなと思いました。退団後、ヨーロッパ各国で男性のトートが歌うのを何度も聴き、女優になって色んな役を演じたからなのか・・・。

──色気がさらに増しているように感じましたが・・・。

ありがとうございます! 現役のときは、男役としての色気だけを突き詰めていましたが、退団後の女優としての経験やいろんなトートさんたちの表現を聞いてきたからかな? そうそう、そのときの音楽監督の吉田優子先生に100点もらったんですよ! 宝塚現役中もそんな点数もらったことがなかったのに(笑)。

──本当に素敵でした。そんな一路さんに、ぜひ歌のルーツについて伺いたいのですが。

だいぶ遡るのですが、私は名古屋の中日劇場でナマの宝塚の舞台を観て、宝塚への夢が止まらなくなったんですね。実は先天性股関節脱臼をもっていたので、宝塚音楽学校の受験はお医者さまから猛反対されました。でも色んな整形外科の先生に相談すると「前例はないけれど、ちょっとやってみましょうか」と言われ、恐る恐る踊りを始めて。でも自分のなかで、踊りで大成することは無理だと思っていたので、気がついたらすごく歌を頑張っている自分がいたのが、私の歌のルーツのような気がします。宝塚に入っても「歌える」ということで、レールを少しずつ敷いていただき、自分の原動力になりました。

──男役として、歌がかけがえのないものになっていったのですね。

そうです。本音をいうと、トップになれるとは思ってなかったです。トップさんは歌、芝居、踊りの三拍子揃った方だと。私は大劇場でソロの歌をもらえたら十分、という気持ちで宝塚に入ったので、全編歌のミュージカル(『エリザベート』)で卒業できたのは、神様からもらったギフトだと思っています。

──いまは歌うとき、どんなことを心掛けているのですか?

歌って男役、女優、オペラと全部違うんですね。なので、曲目に合わせて喉を調整するため、声楽の先生のもとを訪れるところから毎回始まります。高いキーの作品は、半年ぐらい準備をしますね。それが積み重なって、コンサートで1部は男役、2部は女優、という構成をできるようになりました。実は宝塚退団後、ソプラノを出すために男役の歌を封印していた時期が10年ほどあって。でも、一度休業した後は宝塚の歌から始め、復帰コンサートは男役の歌を歌いました。男役の声は朝「おはよう」と起きたときから出るんです。10代の一番吸収できるときに修得しているので、ブランクがあっても自転車にすぐ乗れるみたいに、男役の歌は歌えるんです(笑)。

──4年間休業されたときは、どのような想いでいらっしゃったのですか?

自分のいいところも悪いところも全て見えて、自身を見直せるとてもいい時間でした。宝塚退団後はひたすら走り、終演後何も考えられずただ家に帰って寝るだけ、という生活を10年間続けていたので。ファンの方には寂しい思いをさせてしまったのですが、休業したことで自分がニュートラルになり良かったなと思います。

──いまはいいペースで、お仕事ができているのですね。

そうですね。退団して20年以上、こうしてお仕事させていただけるのが幸せです。これから先は身の丈に合った役に巡り合うのを楽しみにしています。復帰後、ストレートプレイにも多く出演し、『卒塔婆小町』をモチーフにした100歳の老婆や、『ガラスの仮面』の月影先生といった役もいただける年齢になったのだな、と感慨深いです。今度朝夏まなとさんのお母さん役(『オン・ユア・フィート!』)も演じますが、求められる役が広がっていることにワクワクします。歌に関しても、いくつになってもやるべきことは山積みですが、それをポジティブにとらえ、「これで終わり」とゴールを考えずに進んでいきたいです。

今コンサートは「京都芸術劇場 春秋座」(京都市左京区)にて、11月10日開催。チケットは一般6500円ほか。発売中。

(Lmaga.jp)

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