「ボートレース記者コラム・仕事　賭け事　独り言」

　ファンが選ぶ夢のＳＧ競走『第４８回ボートレースオールスター』がいよいよ５月２５日に開幕する。今年の舞台は福岡県若松ボートレース場。２０年の最多賞金、最高勝率、最多勝利を記録したＭＶＰ・峰竜太（３６）や、女子初のＳＧ制覇の期待を担う大山千広（２５）ら、現ボート界のスーパースターと共に、選手生活４０年目の西島義則（５９）がファン投票で選出された。今年１０月３０日に６０歳を迎える西島の輝かしいボート人生は、今なお進化を続けている。

　ＳＧ直前の５月、西島は児島ボートに参戦していた。いつものように納得がいくまで整備を行い、プロペラの調整をする。勝つための労は惜しまない。疲れなど見せず、黙々と作業していた。ピット内の移動の際も追い付けないほど歩くのが速い。福岡在住の記者が「ジョギング中に西島さんが散歩をしている姿を見るが、歩くのが本当に速い」と感心していた。いやいや、それは散歩か？競歩に近いトレーニングじゃないのか。速いのは水の上だけじゃない。陸上でも快速なのだ。

　１３年６月、とこなめグランドチャンピオンでの事故から８年。命の危険にさらされたあの日から、西島は与えられた第２のボート人生を全力で生きている。脳にも目にも手足にも後遺症はない。医師も驚愕した奇跡の復活劇を、私は記事にした。私にとって、あの紙面は分岐点。

　胸の中に沸き上がる熱い思いを書きたい。書かなくて記者と言えるか。でも、私に書けるのか？自分に何度も問うた。そして、のたうち回りながら言葉をつづった。思い出すだけで、今も胸が締め付けられる。

　「野白さんと言えば、西島さんのあの記事を思い出す」と言った記者が何人かいた。自分たちでは書けないと。私も、西島がよく書かせてくれたと思う。実は事故の前、私は西島と言い争いをした。いや、一方的にまくし立てられた。「あんたこれからどうしようと思うとるん？今のままでいいん？」と。未来が見えず、一日一日が精いっぱいだった私はバッサリ切られた。

　その数カ月後、西島の事故を知った。見舞いに行ける間柄でもない。このまま会えない可能性もあると思っていた。そんなある日の帰り道、児島駅で木山和幸（５０）に出会った。今思えば、不思議な巡り合わせだ。徳島県の鳴門ボートを走り終えた木山が、岡山経由で広島に帰る途中だったのだ。岡山駅へ向かう車中、木山にも聞かれた。「野白さん、これからどうしたいん？」。私は思い切って言ってみた。「私は人を描きたい。人生を書きたい」と。すると木山は間髪を入れずこう言った。「じゃあ、西島さんを書かせてもらいんちゃい。波瀾（はらん）万丈よぉ」。

　西島は事故で入院中。当時は再起不能、引退のうわさも飛び交っていた。だが、木山は言い切った。「あの人は１００％戻ってくる。僕が保証する。間違いない」。その言葉は２カ月後に現実となった。事故からわずか４カ月半で西島は復帰。しかも、復帰２節目に児島に来たのだ。

　西島の出場が急きょ決まり、ケンカ別れしたままの私はいろいろ考えた。何て切り出せばいいんだろう。「お元気でしたか？」。いやいや、お元気じゃないよ。「お久しぶりです」。軽いな。答えが見つからないまま、朝の電車に飛び乗った。すると、通路を挟んだ向かい側に西島が座っていた。体重は６０キロ、ふっくらした顔の額には傷を縫ったあとが残っていた。考えるより先に体が動いた。そして出た言葉は「西島さん、心配してたんですよ！！」。児島駅に到着するまで、事故の詳細と完治するまでの経緯、家族の支えなど、濃い話を聞かせてもらった。胸が熱くなり、感動で震えた。

　１４年４月１日、デイリースポーツの終面に西島義則物語は掲載された。そして掲載日の２日後に児島で開催されたデイリースポーツ杯で西島は優勝した。やはり、持っている。優勝後の西島に取材するとこう言われた。「準優日に、記事を読み返して泣きそうになったよ。正直言って、野白さんがここまで書けるとは思わんかった」。ダメ出しばかりされてきた私が、西島に褒めてもらえた瞬間だ。

　長い、長いこの文章。デスクもあきれているだろう。だが、これでも書き切れない。西島の物語はシーズン途中。新しい企画で西島ファミリーのその後を追いたい。事故当時赤ちゃんだった息子が、今は小学生。運動神経抜群で西島そっくりの性格らしいのだ。末恐ろしい。木山の言葉が頭によみがえる。「西島さんの人生を書きんさい。波瀾（はらん）万丈よぉ」。衰えるどころか、進化を遂げる奇跡の５９歳。まずは西島のオールスターでの活躍を見守ろう。ドラマが待ち受けている予感がする。（関西ボート担当・野白由貴子）