子どもが会計前のパンを床にポトリ→店側「買い取って」→法的には拒否できないの?【弁護士が解説】
子どもと一緒にパン屋で買い物をしている際、トレイの上のパンやトングで挟んだパンを子どもがうっかり床に落としてしまい、売り物にならない状態に。「すみません」と謝ったものの、店から「買い取ってください」と言われて困惑してしまうというトラブルは少なくない。
このように、自分の意図しない不注意であっても、未会計の店舗商品を損壊させてしまった場合、法的にはどのような責任が発生するのだろうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ー未会計のパンを落とした場合、法的に買い取る義務はありますか?
「買い取る(売買契約を結ぶ)」義務はありません。売買契約は当事者双方の合意によって成立するため、店側が客に購入を強制することは法的に不可能です。しかし、不注意で商品を損壊させた行為は民法709条の不法行為に該当するため、「損害を賠償する法律上の義務」が発生します。
店側の「買い取って」という要求は、法的には「商品を壊した損害を弁償してほしい」という請求と解釈されます。言葉の違いですが、買取りではなく損害賠償として対応するのが一般的です。
ー子どものうっかりした失敗でも、親が損害賠償義務を負いますか?
親が代わりに損害賠償責任を負うことになります。未就学児や小学生など、自分の行為の責任を判断できない年齢(概ね12歳未満)の子どもが事故を起こした場合、民法714条に基づき、監督義務者である親が賠償責任を負います。
また、中学生以上で子ども自身に責任能力がある場合でも、親の監督不十分(民法709条)として親へ請求されるのが実務上一般的です。故意(わざと)でなく「うっかり」の不注意による失敗であっても、法的な過失とみなされるため、親の賠償責任を免れることはできません。
ー損害賠償として代金相当額を支払ったら、落としたパンを持ち帰る権利はありますか?
法的に当然の権利として持ち帰れるわけではありません。不法行為の損害賠償は「受けた損害を金銭で補填すること」が原則であり、代金相当額(定価=本来得られるはずだった利益)を支払っても、商品の所有権が客に移転するわけではないためです。
ただし、賠償を受けた店側が「破棄するだけなのでどうぞ」と配慮して譲渡してくれるケースは少なくありません。権利として「お金を払ったんだから渡せ」と主張するのではなく、店側の意向を確認した上で受け取るのが適切な対応です。
ー個人賠償責任保険などで、この損害額を補償することは可能ですか?
法律上は補償の対象となります。クレジットカードや火災保険等に付帯する「個人賠償責任保険」は、日常生活で他人の財物を誤って損壊させ、法律上の損害賠償責任を負った場合に適用されます。子どもが店舗の商品を落として壊した事故も対象です。
ただし、保険には「免責金額(自己負担額)」が設定されている場合があり、パン1個(数千円未満)程度の損害では保険金が支払われないか、手続きの手間が見合わないケースがほとんどです。トレイごと大量に落として損害が高額になった際などに活用できます。
●北村真一(きたむら・しんいち) 弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。
(よろず~ニュース特約ライター・夢書房)
