亡き父が遺した自筆遺言書→「吉日」とあって無効に…パソコン作成や夫婦連名もダメな理由【行政書士が解説】

亡くなった父の遺品整理をしていたら、丁寧に手書きされた遺言書を発見。「〇年〇月吉日」と記され、内容も明確だったため安心していたものの、専門家に相談すると「これでは法律上無効です」と告げられてしまう。

故人の想いが詰まった遺言書であっても、法的ルールを1つでも破ると効力は失われる。一見完璧に見えても、実は要件を満たしていない「無効な遺言書」は少なくない。

そこで、自筆証書遺言で陥りやすい失敗や正しい書き方について、北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに話を聞いた。

ー「〇月吉日」と書かれた日付は、なぜ遺言書が無効になるのでしょうか?

自筆証書遺言には、作成した「暦上の特定の日」を自書することが求められています。通常は具体的な日付を記載しますが、「〇月吉日」のような表現では特定の日を確定できません。そのため、要件を満たさず、遺言全体が無効になると裁判所は判断しています。

暦上の特定日を記載させる趣旨は、遺言書が「いつ書かれたか」によって遺言能力の有無を確認したり、複数の遺言書が存在する場合に優先順位を判断したりするためです。したがって、「2026年9月1日」のように、年月日を明確に特定して記載しなければなりません。

もっとも、特定の日が客観的に判明するのであれば足りるとの考え方から、学説では「還暦の日」や「令和8年秋分の日」といった記載も有効と解されています。

ーパソコンで作成して署名・捺印だけ手書きするのはNGですか?

本文をパソコンで作成した場合、その遺言は無効となります。自筆証書遺言では、本文・日付・氏名を自書することが求められており、筆跡から本人が書いたものであるかを確認できること、そして遺言者の真意が書面自体から明らかになることが重要だからです。したがって、これらの部分はすべて手書き(自署)で記載しなければなりません。

もっとも、近年の法改正により、預貯金口座や不動産などの遺産を一覧にした「財産目録」については、パソコンで作成した書面や、通帳のコピー、不動産全部事項証明書のコピーを添付することが認められるようになりました。ただし、その場合でも、添付する財産目録の全ページに遺言者本人の署名と押印が必要です。

ー夫婦連名で書いた遺言書は無効なのでしょうか?

民法975条が「共同遺言をしてはならない」と定めているため、夫婦が連名で作成した遺言書は無効となります。遺言はあくまで個人の最終的な意思表示であり、いつでも自由に撤回できることが原則だからです。

複数人が1通の遺言書を共同で作成すると、一方が撤回した場合に他方の遺言内容に影響が及んだり、互いの意思が干渉し合うことで自由な意思形成が妨げられ、双方の真意が不明確になるおそれがあります。

そのため、どれほど夫婦仲が良くても、必ず夫・妻それぞれが別々の用紙を用意し、単独で作成し、署名押印しなければなりません。

ー文字の訂正や加筆のやり方を間違えると無効になってしまう?

訂正の方法が民法968条3項の定める厳格な手順に反する場合、その訂正は無効と扱われます。単に二重線を引いて訂正印を押したり、修正テープを使用したりするだけでは、法律上の要件を満たしません。

正しい訂正方法は、まず変更箇所を二重線で抹消し、追加箇所を図示したうえで正しい文字を記載し、その横に押印します。さらに、欄外などに「第〇条中、〇字削除〇字追加」といった訂正の趣旨を記載し、そこに署名する必要があります。

文字の訂正方法を誤ると、後にトラブルを招いたり、修正前後の内容の食い違いによって相続人間に不要な軋轢が生じるおそれがあります。こうしたリスクを避けるためにも、記載を誤った場合は最初から書き直す方が無難です。

◆松尾武将(まつお・たけまさ) 行政書士

長崎県諫早市出身。前職の信託銀行時代に担当した1000件以上の遺言・相続手続き、ならびに3000件以上の相談の経験を活かし大阪府茨木市にて開業。北摂パートナーズ行政書士事務所を2022年に開所し、遺言・相続手続きのスペシャリストとして活動中。ペットの相続問題や後進の指導にも力を入れている。

(よろず~ニュース特約ライター・夢書房)

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