話題の音楽映画に伝説バンドのメンバーらが物申す!「フィクションとリアルの混同」を懸念、再現度は評価
1970年代後半のパンクロック胎動期にオマージュを捧げた映画「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」(田口トモロヲ監督)が今春公開され、SNSで共感や絶賛の声と違和感を示す声が相半ばする“問題作”として注目された。公開から数カ月を経て、当時を知るミュージシャンや識者が同作を再検証するトークライブを都内で開催し、率直な意見が飛び交った。(文中敬称略)
映画では仲野太賀が演じた役のモデルとなった遠藤ミチロウを擁するバンド「ザ・スターリン」のドラマーだったイヌイジュン(乾純)、メディア研究者の野々村文宏による共同企画。「あのころってどんなんだっけ?映画『ストリートキングダム』を題材に日本のパンクをいまこそ斬る!」と題し、イベントスペース「新宿ロフトプラスワン」に満員の観客を集めて7月に開催された。
登壇者は両者を含めて計8人。YMOの細野晴臣プロデュースで1982年にデビューした音楽ユニット「ゲルニカ」を起点に、ソロ歌手、バンド「ヤプーズ」のボーカル、女優としてメジャーな芸能活動も展開した戸川純、78年結成のバンド「ヒカシュー」のフロントマンである巻上公一、アンダーグラウンドの音楽シーンで異彩を放った編集者・ライターの山崎春美、シド・ヴィシャスらの音楽ドキュメンタリーを手がけた映像作家の赤羽貞明、同作に登場する主役バンドのモデルとなった「リザード」のファンで高校時代からメンバーと接したエッセイスト・青木るえかが参加。司会進行をプロインタビュアー・プロ書評家の吉田豪が務めた。
昨年末にイヌイと試写会に足を運んだという戸川は「“さわやか”でストレートな青春映画。(危険性もはらんだ)その時代を知らないのか、知っていてカットしたのかは分かりませんが、そこを描かないと…」と切り込んだ。商業作品としてコンプライアンス的に触れにくい部分は削られるか、漂白&脱臭されるという、メジャー映画としては致し方のない事情もある。だが、そこは覚悟して掘り下げるべきと訴えた。
イヌイは「フィクションなら別にいいんですが、映画に登場するバンド名『解剖室』はザ・スターリンの曲ですし、ミチロウをモデルにした役名が(その容姿も含めて)『未知ヲ』になっているとか、半ばドキュメンタリー、ノンフィクションの匂いがした。それならば誤解を招くような表現はどうか?」と、創作と事実の混同を懸念した。
この企画の中心人物となったイヌイは1959年生まれ、兵庫県尼崎市出身。関西でも有数の進学校である甲陽学院中、高校(西宮市)から上京後、多摩美術大の建築科で学びながら、80年に遠藤と共にザ・スターリンを結成。過激なパフォーマンスで話題性が先行しがちだったが、文学性とパンク精神が反映された作品は評価された。
85年の解散後は建築家として活動しつつ、2015年から音楽シーンに復帰して「イヌイジュングループ」でドラムを叩く。21年からは画家として始動し、各地で作品展を開催。今年3月には著書「PUNK! 反逆の向こう側で ザ・スターリンたちはなにを歌ったのか?」(シンコーミュージック)を世に出した。イヌイは会場でも「パンクというものは自己否定の繰り返し」との持論で、映画のスタンスに異を唱えた。
一方、詩人として「第1回大岡信賞」(19年度)を受賞し、今年1月に古希を迎えた巻上は「(映画に登場する場所の)ほぼ全てに僕はいました。でも、僕の役は出て来ない。ドキュメンタリーの手法で『この人が写ると映画が成立しないので、そこどいてください』という感じです」と独自の視点を示した。。世界観を異にする自身はこの物語からはみ出す「余計な要素」だが、そうした「枝葉末節」にも本質があり、歴史から「なかったこと」にはできないという思いをにじませた。
青木は「『(当時を)知らないけど良かった』という人は何が良かったのか?」と問題提起。「美術や小道具などの再現度はすごいです」と実体験を元に評しつつ、人気脚本家・宮藤官九郎を起用したストーリーの全体像については「よくまとめたなと思いますよ」と言葉の行間にアイロニーを漂わせた。
終盤には観客のお目当てであるライブが行われた。イヌイの中・高校時代の1年先輩で音楽ユニット「TACO」を率いた山崎はYMOの坂本龍一が作曲と演奏で参加した曲「な・い・し・ょ・のエンペラーマジック」などを、巻上は電子楽器テルミンを駆使しながらヒカシューの代表曲「20世紀の終わりに」と「パイク」を披露。戸川はザ・スターリンの代表曲「ロマンチスト」「解剖室」に続き、80年代にヒットした自身の曲「好き好き大好き」「パンク蝋化の女」「レーダーマン」を絶唱した。
そうした「歌の力」で幕を閉じたイベントの基調は「語ることがその映画を豊かにしていく」(野々村)。批判や異論もまた、その対象となる作品を鍛えていく。
(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)
