「辞めた会社に今さら…」泣き寝入りした“サービス残業代”、退職後でも請求できる?【弁護士が解説】
企業戦士として昭和から平成を駆け抜けてきた40代、50代のサラリーマンにとって、会社への滅私奉公は美徳ですらあったかもしれない。しかし、その責任感を逆手に取った「サービス残業」は、明白な違法行為だ。
あるIT企業を1年前に退職した男性は、在職中に月100時間近い残業が常態化していたが、「みんなやっているから」「評価が下がるのが怖い」という思いから、残業代を請求できなかった。そんな中、同年代の友人が未払い残業代を請求して取り戻したという話を聞き、「もしかしたら、自分も?」と考えるも、手元にはタイムカードのコピーなどの明確な証拠は残っていない。
このような場合でも、過去の未払い残業代を請求することは可能なのか、まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ー退職後でも未払い残業代を請求することはできますか?
退職したからといって、過去に働いた分の賃金をもらう権利が消えることはありません。在職中は人事評価や職場の人間関係を気にして請求を躊躇される方が多いですが、退職後であればしがらみもなく、正当な権利を行使しやすいタイミングだと言えます。
ー残業代請求権の「時効」は何年ですか?
以前は2年でしたが、法改正により2020年4月1日以降に支払日が到来する賃金については、時効が3年に延長されました。本件の場合、退職して1年とのことですので、在職中の未払い分の多くがまだ請求可能な期間内に収まっている可能性が高いです。ただし、1日でも過ぎればその権利が消滅していきますので、早急な行動が必要です。
ー請求にあたって、最も重要となる「証拠」にはどのようなものがありますか?
もちろんタイムカードは有力な証拠ですが、それが全てではありません。以下のようなものが証拠として認められるケースが多くあります。
・業務で使用したパソコンのログイン・ログオフ記録
・業務メールの送信履歴(特に深夜や早朝のもの)
・交通系ICカード(SuicaやPASMOなど)の乗降履歴
・Googleマップ等のタイムライン(移動履歴)
・家族に「今から帰る」と送ったLINEやメールの履歴
・業務日報や、手書きの日記(日付と勤務時間が具体的に記されているもの)
これらを組み合わせることで、本来の勤務時間を再構成し、立証できる場合があります。
ー残業代を請求するための具体的なステップを教えてください。
まずは、先ほど挙げたような資料を基に実際の労働時間を洗い出し、本来支払われるべき残業代の総額を計算することから始めます。金額が確定したら、会社に対して請求の意思を伝えますが、この際は必ず「内容証明郵便」を送付してください。これは、請求した事実を公的に証明できるだけでなく、時効の進行を一時的にストップさせる(時効の完成猶予)という法的な効果があるため重要です。
通知が届いた後は、会社側との話し合いによる交渉に入ります。ここで双方が合意できれば早期解決となりますが、もし会社側が支払いを拒否したり、金額面で折り合いがつかなかったりした場合には、次の段階へと進みます。
具体的には、裁判所の手続である労働審判を申し立てたり、訴訟を提起したりして、法的な強制力を持って支払いを求めていくことになります。
●北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。
(よろず~ニュース特約ライター・夢書房)
