大河「べらぼう」背景に、女性も注目の「春画展」が歌舞伎町で開催!原点は10年前、元首相が扉開く
NHK大河ドラマ「べらぼう」で江戸の大衆文化への注目が高まる中、同作にも登場した「春画」を特集した作品展「新宿歌舞伎町春画展ー文化でつむぐ『わ』のひととき」が7月26日に開幕し、9月30日まで約2か月間にわたって都内で開催される。同展では古美術商の浦上蒼穹堂代表・浦上満氏(74)のコレクションから浮世絵師・葛飾北斎らが描いた作品を2会場合わせて約150点展示するが、実は国内での大規模開催には“苦難の道”があった。浦上氏に話を聞いた。
浦上氏は2013~14年にロンドンの大英博物館で開催された春画展に出品者として携わり、英紙ガーディアンなど地元メディアでも高く評価された。「江戸の人は性に対して非常におおらかで、笑いのタネとして肯定的にとらえていた。大英博物館では『日本人は“エコノミック・アニマル”と思っていたが、こんなにユーモアやウィットのある面白い人たちだとは思わなかった』という反響がありました」。同氏は英国での手応えから日本での巡回展を模索したが、交渉は難航したという。
浦上氏は「(国内)20の美術館と直接交渉しましたが、『それはいかん。責任を取りたくない』と。スポンサーも見つからず、はがゆい思いをしました。英国では『マザー・カントリーでなぜ春画が展示されないのか』と言われ、改めて日本の保守性を感じました」と証言。約200年前の文化遺産であっても、美術館などの公的施設では性描写がタブー視される日本の現実に直面した。
そこに、救いの手を差し伸べた人物が細川護熙氏(87)だった。1993~94年に非自民の連立政権で首相を務め、政界引退後は陶芸家・茶人として在野にあった細川氏。当時、理事長を務めていた東京・目白の「永青文庫」という施設での展示を浦上氏に打診した。
浦上氏は「元総理が『小さいですけど、うちでよかったらやりますか?』と言ってくださり、15年9月から12月まで開催しました。元々、細川家の従業員のための建物だった小さな美術館に約120点を展示したところ、連日の大行列。3カ月間で約21万人を動員し、一種の社会現象と評されました。(日本外国特派員協会での会見で)『なぜ、春画展を?』と問われた細川さんは『義侠心から引き受けました』という名ゼリフを残されました」と振り返る。
悲願達成から10年後の夏。舞台は世界有数の歓楽街・新宿歌舞伎町に移り、その支援者は元首相から元ホストの実業家に変わった。ホストクラブ、書店、飲食店、美容室、介護サービスなど様々な事業を展開してきた「Smappa!Group」の手塚マキ代表(47)が主催。浦上氏は監修を務める。
手塚氏は開幕前日に行われた会見で「分かる人にしか分からない崇高な芸術作品ではなく、みんなで輪になって楽しめるようなものであるべき。作品は基本的に女性目線でかっこいいとか、色気があるものを中心に選んでもらった。江戸時代の寛容さを知っていただけたら」と語った。
メイン会場は歌舞伎町にある「能舞台」で、北斎や喜多川歌麿らが手がけた100点を展示。さらに、徒歩約2分の場所にある第2会場は会期中休業となるホストクラブで、店内には約50点が展示され、巨大なマツタケに女性がしがみつく江戸時代後期のコミカルな作品「開談花の雲」(絵師不詳)などを楽しめる。こうした作品をモチーフにしたキーホルダーやクッション、手ぬぐいなどのグッズも販売されている。(いずれも18歳未満は入場不可)
浦上氏は「歌舞伎町でやることに可能性や意義を感じます。江戸時代は男性社会だったが、女性も奔放で生き生きとした面があった」と指摘。その言葉通り、会場には女性の姿も多く見られた。春画は「笑い絵」「わ印」とも呼ばれ、作品を囲んで笑い合う「想像力の遊び」だという。
浦上氏は「(10年前の)展示で、細川さんから『女性は春画を見ている自分の姿を(男性に)見られるのが恥ずかしいかも分かりませんから“レディース・デー”を設けては?』と提案されたのですが、2週間もすると、細川さんの方から『もう、レディース・デーは必要ございませんね』と言われました」と回顧。「春画は今、男性の手を離れて、むしろ女性の手に移ったと感じています」と感慨を込めた。
(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)
