ラサール石井が中村勘三郎さんに託した心のツッコミ「バカだなぁ」…「板の上」から「赤じゅうたん」へ

 参院選(20日投開票)で社民党から出馬したラサール石井(69)が比例当選を果たした。1980年代前半にお笑いトリオ「コント赤信号」のメンバーとして世に出て以来、タレントや俳優、人気アニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の主人公・両津勘吉の声優といった活動で知られるが、知る人ぞ知る「舞台演出家」としての顔もある。選挙戦の中、石井は“舞台人”として稀代の名優への思いを語った。

 公示日の3日、都内のJR新宿駅南口。第一声の演説を終えた石井は囲み取材で自身に対する周囲の反応について語る中、突然、しんみりした表情になり、「たぶん、天国にいる勘三郎が『バカだなぁ』って、言ってると思います」とつぶやいた。

 「勘三郎」とは、2012年に57歳で亡くなった歌舞伎俳優の十八代目中村勘三郎さん。10月で70歳となる石井と同い年で、存命であれば今年互いに古希を迎えていた。石井は02年に勘三郎さんが中村勘九郎だった時代の主演舞台「別府温泉狂想曲『喜劇 地獄めぐり~生きてるだけで丸もうけ~』」(東京・新橋演舞場)の演出を担当。その後も舞台演出家として勘三郎さんと接した。

 石井の原点は「板の上」。早大在学中に劇団「テアトル・エコー」の養成所に入り、そこで明大落語研究会の渡辺正行、小宮孝泰と出会い、「コント赤信号」を結成。下積み時代には東京・渋谷のストリップ劇場「道頓堀劇場」の幕間コントで修行した。演出家としては、勘三郎さんの出演舞台をはじめ、志村けんさん(20年死去、享年70)がライフワークとした舞台「志村魂」で06年の初回から最後の舞台となった19年まで総合演出を担当した。

 その一方、政治的発言によってテレビ番組の出演が制約される中、「芝居の世界は“平場(ひらば)”だから、そんなことはない…と思っていたら、『うちのタレントはラサール石井が演出する芝居には出せない』と、ある事務所から言われたこともあった」という現実にも直面した。

 この「平場」という言葉の意味は様々だが、演劇で舞台と客席が一体になるような場も指す。選挙演説では「平場で皆さんと共に生きる社会を作りたい」と訴えた。その言葉使いからも舞台人ならではの感性が伝わった。

 お笑いの世界から芸能人として世に出て、初体験の国政選挙で比例当選して参院議員になる…という点で共通している水道橋博士との親交も続く。今年3月3日、記者が浅草・東洋館で芸人の三又又三、大久保佳代子らが出演した水道橋の企画イベントを取材したところ、客席最後尾から舞台に見入る石井の姿があった。

 水道橋が22年にれいわ新選組から立候補した選挙戦、国会議員となったものの、鬱病によって辞職を余儀なくされた日々を追ったドキュメンタリー映画「選挙と鬱」にも石井は「ちょっとだけ」出演。「博士に出馬を会見前日に伝えると、『頑張って。応援してます』というメールをいただきました。彼によると日を追うごとに演説がうまくなっていくらしいので、それを期待したい」と意気込んでいた。

 公示後初の日曜日となった6日、メンバーの小宮と共に、かつてコント赤信号として出演したバラエティ番組のスタジオがあった旧・新宿アルタ前で演説。石井は「(22年末放送のテレビ朝日系「徹子の部屋」で)『新しい戦前』とタモリさんが言いましたが、素晴らしい言葉です。今(日本は)その中に入ってしまっている。それをなんとか止めたい」と“ゆかりの地”で訴えた。

 その場で、改めて勘三郎さんについて聞くと、石井は当サイトに「勘三郎さんとは『歌舞伎もやろう』と約束していました。いろんなことを約束していましたが、かないませんでした」としのんだ。

 「板の上」から「赤じゅうたん」へ。今後は国会と演劇の“二刀流”となる。「バカだなぁ」という名優のツッコミが心の中で響いている限り、“エライ先生”になることなく足下を見据える。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

サブカル系最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(芸能)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス