「転生もの」漫画が話題、「悪役令嬢もの」が特に人気 「なろう系」とは何?作品の背景を識者語る

 「転生もの」と称される漫画がマニアの中では人気があるという。その種の作品は劇場版アニメ映画にもなっている。新作映画が公開される8日を前に、ジャーナリストの深月ユリア氏が、こうした作品にある心理学的な背景について識者に話を聞いた。

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 劇場版「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった」 が8日から公開される。同作品は通称「はめふら」として、若い世代を中心に親しまれている。「主人公は夢中になっていた乙女ゲームの破滅する運命の悪役に転生した」というストーリーで、昨今人気な「転生もの(なろう系)」「悪役令嬢もの」だ。

 「転生もの(なろう系)」とは、現代に暮らす主人公が何かしらの理由で亡くなり、異世界で生まれ変わって人生をやり直す、というストーリーで、ブームの火付け役だといわれるのは、 「てんすら」こと「転生したらスライムになった」。「主人公が通り魔に刺され、スライムとして転生した」というストーリーで、同作品は2018年にアニメ化、22年11月には映画化され、(映画の公式サイトによると)国内観客動員数100万人越え、興業収入13億円越えを記録した。

 そして、そんな「転生もの」の中でも、昨今は「悪役令嬢」が主人公の作品が増えている。

 出版業界の売れ行きなどの統計を調査する出版科学研究所の調査によると、タイトルに「悪役令嬢」を含む小説は12年の時点では0点だったが、19年には55点、22年には108点と急増した。現在、筆者が調査したところ、漫画配信サイト「コミックシーモア」だけでも「悪役令嬢」とタイトルがつく漫画・ライトノベルが650点以上ある。

 「悪役令嬢」は自由奔放に振る舞い、登場人物の男性たちに対してはっきりとした物言いをし、時には周囲を傍若無人に振り回す訳だが、昔からよくある設定の「清楚で努力家」の主人公キャラとは真逆だ。

 なぜ、「なろう系」(※この名称はウェブの小説投稿サイト「小説家になろう」の“なろう”に由来。当初は同サイトから生まれた一連の作品群を指したが、現在は定義が多様化)、その中でも「悪役令嬢」ものが、ここまで流行(はや)るのか。

 心理学者の富田隆氏にインタビューしたところ、「『転生もの』では前世の記憶だけは残っていますが、前世の自分が置かれていた『環境』はオールクリアされ別のものになっているわけです。これは、自分が置かれている『世の中』や自分の『現状』への不満などネガティブな認識の結果と考えられます」という。そして、このような認識には危険な「罠(わな)」があるという。

 富田氏は「前世の記憶は残っているのですから、たとえ姿形はまるで変わったとしても、自分自身の『精神』は変わりません。これは、自分自身に対する『全面肯定』の結果です。つまり、世の中は『全否定』、自分自身は「全面肯定』という心理的構造が基礎になっています。これは、犯罪者が『自分は悪くない。世の中が悪い』と主張するのに似ています。両者に共通しているのは世の中への『責任転嫁』であり、自分を変えるつもりがない、という点です。自分が変わらなければ世の中も世界も変わらないのですが…」という。

 ただし、同氏によると、「転生もの」の中でも「悪役令嬢」ものには「世の中への責任転嫁」の罠から抜け出す希望が見いだせるという。「転生した結果『悪役令嬢キャラ』になってしまうといった設定のものは、『自分が変わる可能性』を強く意識させる構造になっています。悪役令嬢キャラは過去生の自分とは置かれている状況がまるで違いますから、主人公の精神は、新しいキャラに合わせ、状況との関係に合わせ『変わる』必要が生じます」という。

 「悪役令嬢」は自由奔放に振る舞い、自らの運命と物語のストーリーをも変えていく。氷河期世代(※バブル崩壊後の“就職氷河期”と直面した70-80年代生まれの人たち)の間には「努力しても世の中は変わらない」という考え方が流布したが、Z世代(※生まれた時からインターネットが普及していた最初の世代で、90年代半ばから2010年代初期に生まれた現在12歳-20代後半までの人たち)はより自由な考え方を持っているのかもしれない。

(ジャーナリスト・深月ユリア)

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