“大人の事情”でお蔵入り「マクロス」主題歌への思い たいらいさお「悔しくて自分が歌った記憶をなくしたいと」

 アニメソング、童謡の歌い手で知られる、たいらいさお(70)が次回公演で、1982年に放送された人気アニメシリーズの第1作「超時空要塞マクロス」の主題歌「マクロス」をカバーする。過去に2回ステージで披露した記憶があるという同曲は、最初にボーカルとして録音を終えながらも、藤原誠に変更されたエピソードを持つ。当時の状況、その後の活動について、たいらに聞いた。

 「OKです」「これで行きましょう」-。スタジオで関係者にかけられた声は今も鮮明に覚えている。たいらは「あれは放送開始の3カ月、いや半年前かな。もう40年以上前のことですから、記憶がおぼろげなところもあります」と断った上で、「羽田健太郎さんの作曲で、力強さの中に憂いがあって、心に染みる素晴らしい曲でした。オープニング(「マクロス」)、エンディング(「ランナー」)どちらも歌いました。ところが楽曲は同じままで、私の歌が入っていないものに変わってしまいました。私の何が悪かったのか、と考え詰めました。皆がこれで完璧だ、と言ってくれていたのに、です。とてもショックでした。理由は当時、分かりませんでした」と回顧した。

 所属していたキングレコードの担当者も衝撃が大きく、このことに触れない不文律が生まれたという。「ある程度時間が経って、こういうことじゃないのかな、という感じまでは分かりました。レーベルの問題ではなかったようです。諸事情というか“大人の事情”というところでしょう」と振り返った。

 たいらは1976年にポップス歌手としてデビュー。翌年から2年間、NHK「おかあさんといっしょ」の3代目うたのおにいさんとして活動。2代目だった水木一郎の後を継いだ。当時は“子ども向けの歌”“テレビまんがの歌”の境界線はあいまいだった。その後、子ども向けショーのステージにも立ちながら、キングレコードでアニソン歌手の活動を始めた。

 当初はカバー曲が多かったが、1980年から3年間、多くのオリジナル楽曲を担当した。80年は「無敵ロボ トライダーG7」の「トライダーG7のテーマ」、「伝説巨神イデオン」の「復活のイデオン」。81年は「銀河旋風ブライガー」の同名オープニング曲、82年は「魔境伝説アクロバンチ」の「渚にひとり」などを歌い上げた。特に「復活のイデオン」「銀河旋風ブライガー」は現在も人気が高い。

 たいらは「イデオン、ブライガー、マクロスで“ホップ・ステップ・ジャンプ”となると思っていましたが…」と残念そうに語った。82年を節目にアニソンとは距離を置いた。キングレコード入りを導いた人物が他業種に転職したためで、同レーベルから派生し、アニソンに特化したレーベル・スターチャイルドに所属することはなかった。

 継続して子ども向けショーのステージに立ち続けたが「アニソンも取り上げるのですが、子どもたちは新しい作品ばかりに目が向きますから、イデオンもブライガーも歌うことはなくなりました」と語り、「マクロスはすごい評判でした。まともには見られませんでした。悔しくて自分が歌った記憶を捨てよう、なくしたいと考えたくらいです」と続けた。

 当時、アニソン歌手の芸能界での立ち位置は低かった。アニソン歌手として苦境だった水木一郎とも、子ども向けステージで一緒になった。「歌謡曲などとは数段下に見られていました。水木一郎兄貴は『悔しいね。オレたちはしっかりやっているのに』と話していましたね」。そして、子どものための歌を追求しようと決めた。

 1986年、日本童謡協会企画「日本の童謡200選」のレコーディング参加を機に、童謡歌手としても活躍。毎年開催される「童謡祭」をはじめ、これまで全国400校に上るスクールコンサートに参加した。90年代に入り、大人向けの歌謡曲も担当し、幅広い曲を担うようになった。

 水木一郎は90年代中盤から“アニキ”の愛称で華麗な復活を遂げた。大人になった当時の子どもたちからの要望が高まったためで、それはたいらにも向けられた。テレビゲーム「スーパーロボット大戦」、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」から、イデオンが再び注目された。99年にライブ「スーパーロボット魂」に初参加し、アニソン歌手としての本格的な活動を再開した。

 近年はコンサート等に加え、講演、童謡の講座、音大の講師など後進の指導も務める。たいらは「何にでも挑戦したいですね。まだまだ頑張りますよ」と明るい声で語った。歌い手が死去、引退などでステージを去った昭和のアニソン名曲を、現役歌手がカバーする企画ライブ「TWENTY’S 20世紀のアニメソング」(2月25日、神奈川・相模女子大学グリーンホール)では、久々に「マクロス」をカバーする。「お客さんの反応が楽しみです。歌うのが待ち遠しいですね」と語った。

 「マクロス」を歌った藤原誠は既に世を去った。たいらは藤原とは一度も会ったことがない。その歌声を尋ねると「うまいですよ。魅力的ですよ。ほれぼれする声質、伸びやかで、繊細なフレーズです。声質が一番素晴らしいと思います」と答えた。

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

サブカル系最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(芸能)

    話題の写真ランキング

    デイリーおすすめアイテム

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス