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文豪・川端康成の自伝的BL作品「少年」異例の売れ行き 腐女子からの支持続く

 「伊豆の踊子」「雪国」などで知られる文豪・川端康成(1899-1972)が旧制中学時代、寄宿舎の後輩・清野に向けた愛情の移り変わりと別れを描いた小説「少年」が新潮社から初めて文庫化され、異例の売れ行きを示している。これまでは全集にのみ収録され、一冊の本にまとまるのは目黒書店より単行本が刊行された1951年以来。キャッチフレーズ「川端康成のBL」が新たな読者層を掘り起こし、3月28日に初版1万2000部で発売以来、6月には5刷3万部と好調が続いている。

 「お前の指を、手を、腕を、胸を、頬を、瞼を、舌を、歯を、脚を愛着した。」

 「床に入って、清野の温い腕を取り、胸を抱き、うなじを擁する。清野も夢現のように私の頸を強く抱いて自分の顔の上にのせる。私の頬が彼の頬に重みをかけたり、私の渇いた脣が彼の額やまぶたに落ちている。」

 「清野少年と暮した一年間は、一つの救いであった。私の精神の途上の一つの救いであった。」

 1968年にノーベル文学賞を受賞、72年に突然の自死で世を去った川端康成。文中での行為は抱擁、接吻までにとどまるが、担当編集は昨年、今作品を初めて読み「旧制中学、寄宿舎、少年への愛…BLに詳しくない私でも『あの川端のBL』というフレーズがすぐに浮かんだ」と没後50年の節目、初の文庫化に導いた。

 大阪市天満此花町に生まれた川端康成は2歳で父母を亡くし、7歳で祖父と二人暮らしに。茨木中3年時は、学校から帰ると寝たきりの祖父を介護し、尿瓶の底に響く小水の音を「谷川の清水の音」と表現。現代の「ヤングケアラー」の典型ともいえる生活を経て、祖父が死に、独りになった川端は16歳で中学の寄宿舎に入り、清野に出会う。

 併売状況調査では、2刷以降の購買層は男女比3対7、30~40代を中心に女性比率が一層高まっている。併買書籍では凪良ゆう「流浪の月」、榎田尤利「永遠の昨日」、町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」などが挙がった。BL出身作家のファンを中心に、幅広く話題作を読んでいる本好き女性層が加わり、「少年」の人気を支えているという。担当編集は「激しい男女の性愛や暴力を描く作品が減ってきた今、三島由紀夫のようなハードコアな同性愛ではなく、ソフトな路線が現在のBLブームにもマッチしたのでは」と話した。BL好きな腐女子の支持を「これほど続くとは。驚きです」と続けた。

 作中では川端自身が、50歳で全集を出すことになり、過去の原稿を見直したところ、茨木中時代の日記、一高時代の手紙、後に「伊豆の踊子」に発展する24歳で書いた草稿「湯ケ島での思い出」がそろい「少年」が誕生したと説明する。一方で自身を表す登場人物名を「宮本」とするなど、自伝と断定するには不確実な要素もある。

 その不確実さを決定づけたのは、結末に記された川端の行為にある。担当編集は「川端が自分の心を『畸形』と表現した通り、孤独や欠落を感じさせる描写が多い。50歳で10代の自身を書いた川端による、あの結末は人生に決着をつけているようにも思った。『BL』で本を売ろうとしたが、自死の謎にもつながるようにも感じています」と語った。遺書を残さず世を去った川端の心に迫るならば、「少年」はBL文学の名編といえるのかもしれない。

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

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