林家木久扇、立川談志さんの助言で「与太郎」に徹したバカ人生 骨折も高座のネタに「バカで乗り切る」

 「バカ」には2種類あるという。「いいバカ」と「困ったバカ」だ。日本テレビ系「笑点」の大喜利コーナーで“おバカキャラ”に徹する落語家・林家木久扇が、「バカになるほど愛される」という人生哲学をつづった通算71冊目の単著「バカのすすめ」(ダイヤモンド社)を今春出版した。独自のスタイルを貫く84歳の“生き上手”が、よろず~ニュースの取材に対し、自身の「バカ道」を説いた。(文中敬称略)

 バカ。関西などの「アホ」文化エリアでは、この2文字に“きつい”印象を持つ人がいるかも知れないが、江戸~東京落語においては、一般常識から外れた言動をしても、愛きょうがあって、どこか憎めない「与太郎(よたろう)」というキャラクターに当てはまる。知ったかぶりや世間体、忖度とは無縁。時に、本質を突いた発言で大人を慌てさせ、そこに笑いも生じる。国民的お笑い番組の「黄色い着物の人」として、この「与太郎」キャラを継承して53年。その原点は「笑点」初代司会者である立川談志の言葉にあった。

 「僕(当時・木久蔵)がレギュラーになったのは、談志さんが(1969年に)衆議院選挙に立候補するからと司会を降りた翌週からですが、その前から僕のことを推薦してくれ、『木久蔵は与太郎だよな。その線で行ってみな』と言ってくださった。大喜利メンバーは落語に出てくる長屋の住人たちで、僕は与太郎というバカの役割。手を挙げて指された時に『なんだっけ?』と問題を忘れても笑いが起きる。『(経営した)木久蔵ラーメンはまずい』とネタにして宣伝もできたし、『いやんばか~ん』というレコード(78年発売の2枚目シングル)を出したら10万枚以上のヒットに。古典落語の古今亭志ん朝さん、先代の三遊亭円楽さんらの落語会でもずいぶん使ってもらった。バカは得なんです。『与太郎がいい』と言った談志さんは人の柄の見つけ方がうまかったですね。四六時中、落語のことを考えていた人。大喜利で座布団をあげたり取ったりするルールを考えたのも談志さん。天才でした」

 「自分はバカじゃない」と思っているバカ、「本当の自分」を探すバカ、「いいかげん」と「いい加減」の違いが分からないバカ…など、同書で「100のバカ」を分類して解説。そんな木久扇が「バカですよねぇ」と苦笑したのが、昨年5月に大腿(だいたい)骨を骨折したアクシデント。だが、転んでもただでは起きない。

 「近くのスーパーの半額セールで2リットルのお茶2本を200円で買って自宅に帰ったら、手にぶら下げた重いお茶入りのビニール袋でバランスを崩し、転んじゃった。病室が1日4万円で3か月入院といわれたから、びっくりしちゃって。1か月で退院して、その後は通院しましたが、ほんとにバカなことをしたなと。でも、高座に復帰してから『200円のお茶のために転んで、入院費を(1か月で100万円以上も)払って』と、ネタにすると、これが、すごくウケるんです。正座はできなくて、ずっとイスでやってますから、ドキュメントですよ」

 2000年に胃がん、14年に喉頭がんを患いながら克服。今回も驚異的に回復した精神力の背景には自身の戦争体験もあった。東京・日本橋に生まれ、7歳の時に東京大空襲を経験。「(1945年)3月10日、ひと晩で10万人が亡くなった。防空ごうで爆撃機の音を聞きながら、いつ死んでもおかしくないと。戦後、どんな苦労や大病をしても『あの空襲に比べたら、こんなのは何でもない』と思った」。死の恐怖を幼い心に刻んだ木久扇だけに、ロシア軍のウクライナ侵攻は他人ごとではない。

 「ニュースを見ていて、あのウクライナの子どもたちは、かつての僕だと思う。今の時代に、また戦争が始まるとは思わなかった。人間、ほんとにバカだと思いますね」。このバカは「困ったバカ」だ。

 「僕は空襲で死なずに、こうして好きな道で生きてこられたから大幸福だと思うけど、200円で足折っちゃいました(笑)」とオチも忘れない。現在もリハビリを続けながら、精力的に仕事を続ける。

 浅草演芸ホールの5月上席(1日~10日)では昼の部主任としてイスに座って高座を務める。「カッパ」で知られる漫画家・清水崑の門下生でイラストレーターとして長く活躍してきたが、今年4月からは出生地に縁のある月刊タウン誌「日本橋」で表紙の絵を描く。その絵心は自身のYouTubeでも発揮。85歳となる今秋には、祝いの落語会を都内で計画中だ。

 「コロナ禍で出てきた『不要不急』という言葉にはびっくりしましたね。落語や芝居などは、どんなことも柔らかく受け入れる『スプリング』であり、文章でいうと『句読点』。生きるのに必要なものです。コロナと戦争、バカで乗り切るしかないですよ」

 いいバカは地球を救う。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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