台湾につながる日本の60年代安保闘争

 日本が誇る国際映画祭・山形国際ドキュメンタリー映画祭2015が10月8日~15日、山形市内で行われた。隔年開催で今年が第14回。筆者は07年から参加しており、今年が5回目。戦争、貧困、性的虐待など世界の”今”が凝縮されたドキュメンタリーが約160本上映され、1週間、そりゃもう濃密な日々なのである。

 同映画祭のメーンは、インターナショナルとアジア作品に特化した2つのコンペティション部門。ほか、2011年から続く東日本大震災をテーマにした「ともにある Cinema with Us 2015」や、緊迫するアラブ情勢を考察する「アラブをみる ほどけゆく世界を生きるために」など、多彩な特集上映とシンポジウムが用意されている。

 アジアをからも早速、届いた。14年3月、中台サービス貿易協定の撤回を求めて学生らが台湾立法院に立て籠もった”ひまわり運動”を記録した台湾映画「太陽花占拠」(14年)と、続いて香港で起こった反政府デモ”雨傘革命”に密着した香港映画「革命まで」(14年)。上映後は監督らとのディスカッションも行われた。

 「太陽花占拠」は、06年に設立された台北ドキュメンタリー・フィルムメーカーズ・ユニオンの製作で、監督は実に9人もいる。学生が立て籠もりを始めた8日後に撮影を開始。プロデューサーは、学生リーダーのチン・イテイや食料調達係、立法院周辺の様子、メディアの反応など各監督に密着テーマを指示。ゆえに多方面からひまわり運動を考察できる内容となった。一方「革命まで」は、TV局カメラマンと元新聞記者の2人で制作。激動の79日間を、7人の活動家を中心に追った記録で、2時間54分に及ぶ力作だ。

 両作を比較すると雨傘革命が「失敗」と言われる理由がよく分かる。ひまわり運動はカリスマリーダーの元、最後まで一致団結して運動を行ったのに対し、雨傘革命は3人の活動家から端を発したものが学生運動へと発展してリーダーが代わり、さらに長期化に及んだことで内輪モメが頻発と、体制が崩れていく様が見てとれる。

 「活動家は学生たちの間でリーダーとして認められていない部分があった」(『革命まで』のクォック・タッチュン監督)。

 「台湾の場合は占拠する場所が立法院と指定されていたのに対し、香港はデモの場所がいくつかあったので分裂したのでは?」(「太陽花占拠」ホー・チャオティP)。

 ただしひまわり運動ではこんな声も。

 「50万人にも及ぶ市民デモへと発展しました。しかし皆が必ずしも中台サービス貿易協定に抗議して集まっていたのではないのです。中国の脅威が増していく中、あまりにも政治がブラックボックスの中で行われ、強引に法案を押し通していく。それに対して多くの市民が不満を募らせていたのです」(「太陽花占拠」フー・ユイ監督)

 日本でも11年3月11日の東日本大震災による福島第一原発事故による脱原発、続く安全保障条約法案に対する抗議と、国会前や首相官邸前でのデモが慣習化されてきた。

 会場からは「運動のエネルギーを維持していく秘訣は?」という問いもあった。

 「台湾ではこの運動後、3つの動きがあります。参加学生たちが新生党を結成し、政府内から変革を試みる者。地元に戻って社会運動を広げようとする者。そして、さらに理想を広げ、中国からの独立を掲げて運動を続けている人たちもいます。彼らは雑誌を出版したり、高校に政治サークルを儲けて若い人を取り込もうと挑んでいます」(「太陽花占拠」のチョウ・シィルン監督)

 「実はひまわり運動は日本の60年代安保闘争に影響を受けています。そういう意味では彼らもまた、日本での反安保の動きに注目しています」(同ワン・ペェイフェン監督)。

 アジアでは今夏マレーシアで、ナジブ首相の汚職事件をきっかけに反政府デモが起こるなど反政府デモが相次いでいる。このシンポジウムでも話題に上ったのは「中国にも影響を与えるのでは?」。民主主義とは何か?湧き上がった市井の声をどのように生かすのか? それを考える上でも、2作品が日本公開することを期待したい。(映画ジャーナリスト・中山治美)

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