松坂桃李が語った俳優としての矜持 「自分も意義を感じたい、動き出すきっかけになるような作品に」 作品ごとに魅力発揮
俳優・松坂桃李(36)の活躍がとどまるところを知らない。3月まで放送されたTBS系日曜劇場「御上先生」での好演からわずか、今月には公開中の映画「パディントン 消えた黄金郷の秘密」に加え、寺尾聰(77)と親子役で「父と僕の終わらない歌」(23日公開)にも出演。作品ごとにさまざまな魅力を発揮しながらも、ブレない芯の強さも感じさせる松坂。作品への思いや俳優としての矜持を語った。
忙しい合間の時間を縫っての取材となったが、椅子に座った松坂は温かみのある声で「何でも!何でも聞いてくださいね」とほほ笑んだ。
どれが本当の松坂桃李なのか-。そんな考えが浮かぶほど、演じるキャラクターによって印象が違う。9日に公開されたばかりの映画「パディントン」シリーズ最新作では、日本語吹き替え版でパディントンに命を吹き込む。普段の松坂よりも少し高く感じる声は、2016年に公開された最初の作品の際に監督から受けた指示によるものという。
「こうしてしゃべっている声から、ほんの少し高めにキーを設定してやらせてもらっています。それは(パディントンシリーズの)1からずっと続けていること」。ただ、今作が7年ぶりの収録であり、直前まで連ドラの仕事が立て込んでいたことで「不安はありました」と吐露する。それでも家で自らが声を当てた過去2作を何度も“復習”。「『ああ、そうそう。この声だった。この空気感だ』と自分の身体を思い起こさせながら現場に行きました」とうなずいた。
最新作はペルーでの冒険劇。意識したこれまでとの変化は「ちょっと男らしさ。今回はパディントンがブラウン一家を巻き込んでいく。その過程で少し男らしい部分が見え隠れしたら、とディレクターの方に教えてもらった」と振り返る。
パディントンは、松坂にとって今や大切な存在。私生活では子どもも生まれ、パディントンは家庭内で「浸透しているかもですね。ぬいぐるみもありますし、お家には自然にパディントンがいる」と明かし「できれば自分の声が続く限りは続けていたい作品。数少ない友だちができたっていう感じで」と笑った。
そして、今月23日に公開を控えるのが寺尾聰との親子役として、感動必至の呼び声の高い「父と僕の終わらない歌」だ。撮影は松坂の心に強く残る現場となった。「(劇中で)歌う姿の寺尾さんを見た時の圧倒的なオーラ。歌唱力もだが、全体を包み込むような声で、撮影現場全体が一気にライブ会場になるよう。かつ、お芝居はお芝居で瞳の奥に何とも言えない慈愛に満ちたものが秘められていて。目を合わせると吸い込まれていくような。どのシーンもただただ圧倒されました」と振り返る。
アルツハイマー病が進行していく家族の物語は、病気に関する描写はもちろん、支える家族の苦悩や葛藤などが丁寧に描かれている。「アルツハイマー病は本人も苦しいんですが、支えている家族も苦しい。どの病気もそうだと思いますが、本人以外の支えている人たちが本当に心がめげてしまう、折れてしまう瞬間っていうのがたくさんある」と語る。
その上で「病気と本人、そして自分とどう向き合っていくか。心の病気も生み出されてしまう。そういうものを少しでも、和らぐとは言わないが、何かしらのきっかけ、新しい支えになるものをみつけるきっかけになってもらえば」と、自らがこの映画に参加する意義について語った。
直近の連続ドラマである「御上先生」、吹き替えの「パディントン」、そして「父と僕-」。作風や演じるキャラクターがまったく異なる中でも、そこには松坂が持つ「芯の強さ」と「湧き出るような優しさ」が演技に反映されているように見える。俳優として大切にしていることを問うと「やらせてもらうからには、自分も意義を感じたい。作品を見てくれる人に届けられるものが、この時代にあるのだろうかと。何かのメッセージ、何かを誰かと話すきっかけ、動き出すきっかけになるような作品にしたい。自分が作品に参加する時にはそういう意義みたいなものを大事にしているかも」と語る。
そんな考えは、俳優生活のキャリアを積み重ねて行く上で、徐々に形成されたものと話す。「最初はそんなことを考えていたわけではなくて。20代は本当にがむしゃら。いろんな作品、いろんな監督、共演者とがむしゃらにやっていました」と振り返り「ただ、30歳を超え、一つ一つの作品に丁寧にしっかりと向き合うという思いでやってきた。もしかしたら、それがそういう考えにさせているのかもしれません」と自己分析した。
「時間を割いて見てくれた人に、何か終わった後の余韻というか、見て良かったなという『プレゼント』が渡せれば」。その演技は、これからどのように人の心を震わせていくのだろうか。
◇松坂 桃李(まつざか・とおり)1988年10月17日生まれ、神奈川県出身。2009年にテレビ朝日系スーパー戦隊シリーズ「侍戦隊シンケンジャー」で俳優デビュー。NHK連続テレビ小説「梅ちゃん先生」(12年)、大河ドラマ「軍師官兵衛」(14年)などに出演。19年「孤狼の血」で第61回ブルーリボン賞助演男優賞などを獲得。今年1月期のTBS系日曜劇場「御上先生」で主演。27年には大河ドラマ「逆賊の幕臣」で主人公・小栗上野介忠順を演じる。妻は女優の戸田恵梨香。23年5月4日、第1子が誕生したことを発表。
