山内惠介ファンのため笑顔で歌い続ける

 昨年大みそかの「NHK紅白歌合戦」にヒット曲「スポットライト」で初出場した“演歌界の貴公子”山内惠介。32歳は演歌界では若手だが、デビューから15年という苦節を経てつかんだ晴れ舞台だった。NHKホールで愛息を見守った母・朝子さん、師匠の作曲家・水森英夫氏、そしてファン-支えとなった3つの存在を思いながらの熱唱を振り返り、勝負となる2016年への思いを言葉にした。

 涙を流すことなく、歌いきった。歌唱前には客席に座る母・朝子さんが中継され「頑張って」とエールをもらった。グッと来るものを必死にこらえた。

 「とにかく泣かないで歌おうと決めていた。今回の紅白で親孝行ができたのもファンの方の応援のおかげ。ファンの方に元気や勇気を届けるためには、しっかり歌うことだから。母からも『みなさんに感謝しなさい』と言われていた。その思いは伝えられたと思う」

 歌手を志すきっかけは母がつくった。3人兄弟の末っ子で「母にべったりな子だった」という。いつも身を寄せていた最愛の人が、子守歌のようにいつも口ずさんでいたのが、美空ひばりさんなどの演歌。自然に覚え、歌えるようになった。

 「ある日、親戚の前で歌ったら驚いてくれた。幼稚園で砂遊びをしながらひばりさんを歌うと、先生がものすごくかわいがってくれた。歌の力のすごさを知って、歌手になろうと思った」

 ひばりさんと同じ9歳でデビューしたいと思ったが、さすがにかなわず、それでも高校進学直後に初めて出場した地元のカラオケ大会で、運命的にチャンスをつ

かむ。

 「審査員で来ていたのが師匠になる水森先生で、スカウトしてもらった。水森先生はその日、病気で欠席した(作曲家の)中山大三郎先生の代わりに出演していた。もし、中山先生が出演していたら、スカウトもデビューもなかったかもしれない」

 内弟子生活を数カ月でクリアし、17歳で早くも歌手デビュー。氷川きよしに次ぐ“新世代のイケメン演歌歌手”として注目を集めた。しかし、とんとん拍子で進んだのはここまで。ついに試練の日々が始まる。

 さっぱり売れなかったのだ。

 「3年で芽が出なかったらダメと言われていて、そうなった。出られたラジオやテレビにも呼ばれなくなった。21歳のとき、イチから出直したいと師匠に『内弟子からやり直したい』とお願いしたら、先生は『もうやり直せないんだよ。デビューしたんだから。お前はお客さんの前で芸を磨いてもらいなさい』と。突き刺さった言葉だった」

 師匠に突き放されたと思い絶望。ついに「もう歌えない。歌手やめます」と告げた。すると「じゃあ、もう1曲だけやってみよう」と渡されたのが「船酒場」(06年)という曲だった。

 「デビューから4枚手がけてくださった星野哲郎先生の詞だった。それを読んだ瞬間に“あ、これなら歌える”と思った」

 連絡船の中にある酒場のママと客による一夜限りの出会いと別れ。歌詞の最後は「また逢う日まで 元気でね ありがとう さようなら」と締めくくられていた。

 「僕もたったの5、6年だけど、ファンの方と出会って別れてきたんだ。そうか。歌手も酒場のママとお客さんと一緒で、1対1で歌うもんだ、とフッと気づいた」

 山内がブレークした理由には、イベントやコンサートにおける、ファンとの丁寧な接し方があるとされる。AKB48の一部メンバーが、握手会で神対応と呼ばれ、人気を集めるのと似ているが、このころに気づいた「ファンに磨いてもらう」「1対1」が、その礎となっている。

 「神対応?いえいえ。お客さまが僕にとっての神様。イベントでお話をすると『きょうは不機嫌ね』とか、こちらがムッとすることを言われるときもある。でも好きだから言ってくれる。嫌いかもしれないけど、少なくとも僕のことがすごく気になっている。精神的に鍛えられて、ありがたい。僕はすべてを飲み込んで歌ではき出す。それで、もっといい歌が歌える。相乗効果」

 昔はステージ前にテンションを上げるために飲んでいた栄養剤が必要なくなったという。

 「お客さまの声が栄養剤になっている。ドリンクはいつか効き目が切れる。でもお客さまと1時間以上握手したりお話したりしても、切れないで、どんどんアドレナリンが出る。最終的に元気になって、明日も頑張ろうと思える」

 昨年に大ブレークし、肝心なのが2016年。意気込みもプレッシャーも相当なものと思ったが「目標は穏やかに過ごすこと」と意外な答えが返ってきた。

 「去年は僕自身が最高の年になって、笑顔で過ごせた。今年はお客さまを笑顔にする番。そのためには僕自身は落ち着いて、穏やかでいることなんじゃないかと思っている。もちろん、紅白のステージにもう一度帰りたいという思いはある。次はもう少し楽しめて、見ている方にも笑顔にするステージができると思う」

 昨年は、自分が一身に浴びた「スポットライト」。今度は自らが輝いて、ファンに光をあてかえす。

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