AIを超えた人間のかけ引きが面白い!!天才と怪物がくり広げる“盤上の攻防” 山本浩之アナコラム

藤井聡太名人
 糸谷哲郎九段を破り、4連覇を果たした藤井聡太名人=17日
2枚

 【ヤマヒロのぴかッと金曜日】

 将棋の名人戦七番勝負は、結果だけをみれば藤井名人が無敗の4連勝で4連覇を飾ったが、AI研究が当たり前の時代に奇手・妙手が飛び出し、私のような将棋マニアから見ても見応え十分の内容だった。

 将棋は面白い。関西テレビ『いつでも笑みを』で7年間共演した俳優・渡辺徹さんとは同い年で気が合ったこともあり、時間があればよく将棋を指したもんだ。日本将棋連盟から将棋親善大使を委嘱され、アマチュア将棋二段だった彼とは実力の差は歴然だったが、ごくまれに私が勝つこともあった。

 そんなとき彼はしばしジーッと盤面を見つめ、扇子や飲み物など身の回りのものをゆっくり片付けた後、居住まいを正し『ありません』と静かにひと言。彼は将棋の作法、所作にも精通していた。さすが名優、負ける時もホンモノの棋士のようだった。在りし日の彼との思い出は尽きないが、今日の話題は名人戦である。

 竜王・王位・棋聖・棋王・王将と合わせ六つのタイトルホルダー、藤井聡太名人は国民的人気を博す。その名人に挑んだ糸谷(いとだに)哲郎九段。この男、実に面白い。

 奨励会(プロ養成機関)時代にプロ棋士も参加する新人王戦に出場し、途中でプロとなる四段に昇進したうえ優勝するという華々しいデビューを飾ったその翌年に、なんと大阪大学文学部に合格。その後、大学院に進み在籍中に「竜王」に輝き異色のタイトルホルダーとなる。早指しの天才棋士として知られる一方、オセロの世界チャンピオンと互角に戦ったり、ポケモンカードゲームのシールド戦に未経験で参加して優勝と、話題は事欠かない。この人のニックネームの一つが『怪物くん』である。

 「AI(人工知能)に頼らず、力戦で行く」と宣言して臨んだ今回、第一局の初手が……1六歩???通常、攻め駒の飛車や角が動きやすいように先ずはその近くの歩を動かすのが定跡なのに、盤面の一番右にある歩を前に進めた。続く3手目もその歩をさらに進めて1五歩!!この戦法は名人戦史上初だそうだ。そうだろう、こんな型破りな将棋見たことない。

 『4戦全てにおいて、相手に「攻めさせる」将棋を徹底し、実際に「場合によっては勝てる局面」を作ることに成功した』と、解説者のコメントがあったが、凡人には到底理解不能。されど、この大一番であえて相手の攻めを呼び込んでカウンターアタックを狙うことを貫いた。恐ろしいまでの胆力の持ち主である。

 しかし、名人の底力はそれを上回っていた。今や将棋界もAI研究が当たり前だが、常に最善手を示すAIの通りに指すことが『完璧な将棋』ではないことを名人は見せつけたのだ。

 それを最も象徴したのが第3局の中盤。名人が指した一手は、AIの最善手ではなかった。「よく分からないけどちょっとやってみよう」と指した手に、糸谷九段は誘われるように応じる。それが敗着となった。

 この場面はすでに“将棋史に残る毒まんじゅう”と言われている。「完璧さから離れたものの、価値を提供できるほうがいいのでは、と思うようになった…」。また新たな景色が見えた名人の言葉だ。私にその景色が見えるはずも無いが、完璧ではないから『人間が指す将棋』が面白い。

 ◇山本 浩之(やまもと・ひろゆき)1962年3月16日生まれ。大阪府出身。龍谷大学法学部卒業後、関西テレビにアナウンサーとして入社。スポーツ、情報、報道番組など幅広く活躍するが、2013年に退社。その後はフリーとなり、24年4月からMBSラジオで「ヤマヒロのぴかッとモーニング」(月~金曜日・8~10時)などを担当する。趣味は家庭菜園、ギターなど。

編集者のオススメ記事

芸能最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(芸能)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス