【ヤマヒロのぴかッと金曜日】“想像”を超える大水害その時、あなたは!?

 「正常性バイアス」という言葉をご存じだろうか。

 異常事態に見舞われたとき、その異常性を自分の判断で過小評価したり、無意識のうちに「自分だけは大丈夫」と正常の範囲内だと認識しようとする心理現象をいう。その考えのもとで行動するため対応が後手後手になり、自然災害では取り返しのつかないこともある。

 今月12日の夜、三重県四日市市を襲った大雨は、1時間の降水量が123・5ミリと観測史上最大を記録した。住宅の浸水被害は少なくとも約3300軒に上るそうだが、四日市駅近くのビルの地下駐車場が水没したのは『想像を超える』ものだった。いや軽々しく『想像を超える』と書いてしまったが、この根拠のない『想像』こそが、あるいは正常性バイアスを呼び起こしてしまうのかもしれない。

 駐車場内で浸水被害に遭った車は約270台。水の流入を防ぐための止水板の設置が間に合わず、停電で排水ポンプも稼働しなかった。天井付近まで冠水した地下2階部分の水が排水されたのは4日後の16日だったという。人的被害がなかったのは何より不幸中の幸いだった。

 浸水した状況で地下1階から車で脱出した人は、当初自分の判断が遅れて車を出さなかったことを悔やんでいたそうだが、読者の皆さんは自問自答してほしい。同じ事態に直面したとき、すぐに行動を起こせるだろうか?

 東京や大阪をはじめ各都市には地下に駐車場を有するビルがあまたある。その上、大都市ではビルとビルをつなぐ巨大地下街が存在する。以前、南海トラフ地震による津波への備えを取材した際、地下街に通じる出入り口の脇に常備してある止水板を自分で設置したことがあるが、想像以上に重く2人がかりで一カ所につき10分以上かかった。

 今回改めて電話取材したら、徐々に軽量のものに切り替えているとのことであったが、南海トラフの場合、梅田近辺に津波が押し寄せるまで2時間20分と推定されている。その間に全ての出入り口を完璧にふさげるかどうか。今回のように、突如、短時間の大雨によってもたらされる内水氾濫が起きている状況の中で同様の対応をするのはほとんど不可能と言っていいだろう。

 四日市の駐車場が水没したのは自然災害のみか、あるいは対応の不備なのかはまだ明らかでないが、学ぶべきは短時間豪雨は時間や場所を選ばないということ。決して人ごとではないのだ。

 日本の防災研究の第一人者、河田惠昭氏は著書「日本水没」の中で、日本の大都市がいかに脆弱(ぜいじゃく)であるか、現状のまま手をこまねいていれば日本経済が壊滅するような大水害に遭うであろうと警告している。

 確かに、各地に張り巡らされた地下街は、昨今の異常気象や近い将来発生すると言われる巨大地震を見越した科学的知見を元に作られたわけではない。だからといって、今ある地下街や地下駐車場を作り直すことも現実的ではない。ならばどうするか?答えは一つ。『逃げる』しかない。

 生きたければ、いち早く安全な場所に避難するしかないのだ。自分の身の周りで起きている危険に直面したとき、一切のバイアスをかけずに行動することである。(元関西テレビアナウンサー)

 ◇山本 浩之(やまもと・ひろゆき)1962年3月16日生まれ。大阪府出身。龍谷大学法学部卒業後、関西テレビにアナウンサーとして入社。スポーツ、情報、報道番組など幅広く活躍するが、2013年に退社。その後はフリーとなり、24年4月からMBSラジオで「ヤマヒロのぴかッとモーニング」(月~金曜日・8~10時)などを担当する。趣味は家庭菜園、ギターなど。

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