【安部譲二さん悼む】緊張感とワクワク感-最後まで健在だったサービス精神

 ベストセラー小説「塀の中の懲りない面々」(1986年)で一世を風靡し、デイリースポーツで92~2009年に「懲りない編集長」を務めた作家の安部譲二(あべ・じょうじ、本名直也=なおや)さんが2日午前1時18分、急性肺炎のため東京都内の自宅で死去していたことが8日、発表された。82歳。東京都出身。葬儀・告別式は7日、親族のみで営まれた。喪主は妻美智子(みちこ)さん(65)。お別れの会は、本人の希望で行わない。

  ◇  ◇

 安部譲二さんを語る時、必ず出る言葉が「波乱万丈」である。

 一度、「安部さん自身のことをドラマ化すればすごく面白いのに」と話したことがあるが、「アッハッハ」と笑っただけだった。

 本音で生きてきた。市井で生きる一般人にはマネができない。極めつけはやくざから小説家への鮮やかな転身である。一言で言えば、カッコいい。

 だが、ある著書の中で、「うちひしがれそうな絶望感や不安、(中略)人一倍の僻み、山ほどの後悔とそれに涙、なんてものを水面下で隠しているのです」と記している。

 それでも、何があっても人前で弱音を吐かない。周囲に惑わされない。鷹揚(おうよう)に明るく振る舞う。

 安部さんが一時代を築き、世間から認知されたのは、こんな前向きな性格をわれわれ一般人が感じ、受け入れたからではないか。

 もう一つ。安部さんには類いまれなサービス精神があった。

 デイリースポーツで長い間「懲りない編集長 なんだかんだ」というコーナーがあった。1年365日、ほぼ休みなしだ。

 夕方6時過ぎともなると、緊張感とともにワクワク感で電話をにらむ。

 「あべ、じょーじです」と野太いしわがれ声。一日のトピックをデスクと安部さんが話して約40行の一問一答に仕上げる。

 スポーツ、政治、芸能…これが言いたい放題である。書けない話ばかりだ。いまなら到底(とうてい)、字にするのは無理だし、当時でも抗議の矢が飛んできたろう。

 サービス精神で話を大きくし、おまけに脚色する。安部さんは俺の話をさあ、どうまとめる。面白がっていたきらいがある。

 ある時、某人気女性歌手の結婚をネタにした。禁止用語のオンパレードで、まとめるのに苦労した。

 このコラムには決して口出しをしなかった安部さんだが、翌日珍しく「-さん、あんた小説家になれるよ」と一言仰(おっしゃ)った。

 もちろん、サービス精神だろうが、いまでも私の中ではひそかな自慢である。

 最後にお会いしたのは5年前くらいか。「また、何か一緒にやろうよ」と声を掛けてくださった。好々爺(や)に見えながら、そのサービス精神は健在だった。

 最近、どうしているのかな。思っていた矢先の訃報だった。

 あの世でも野太い声で安部節をさく裂させているのだろうか。

 心からお悔やみを申し上げます。

 合掌

 (デイリースポーツ・菊地順一)

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