一時代を築いた深夜ラジオ「オールナイトニッポン（以下、ＡＮＮ）」だが、最近ではリスナー離れも進んでいる。これからのＡＮＮは、そしてラジオはどうあるべきなのか。５０年から先はどう変わっていくべきなのか。ニッポン放送の節丸雅矛編成部長（以下、敬称略）に聞いた。全３回の最終回。

　「もっと狂ってくれ。もっと人と違うことをしてくれ」。現場の制作陣に今、節丸が願うのは、唯一無二と言える番組の誕生だ。「昨日と今日は違うから、昨日の放送と今日の放送は違わなきゃいけない。常にタイムリーなものをつくっていくためには変化しないといけないんですけど、仕掛けがなくなっていくと、スタジオにパーソナリティを放り込んでしゃべらせるだけになっちゃう」。今のＡＮＮについて、言葉はどんどん熱を帯びていった。

　「ディレクターは破天荒な人じゃなきゃダメ」だと話す。「先輩が言っていたことですが、しゃべり手は天才であると。でも、その天才をコントロールしている自分が天才でなくてどうすると。だからお前は天才なんだと言われたんです」。先輩の教えを受けて、節丸自身は自分を「天才」と思い込むことから始めた。

　実際、生ラジオの現場では指示をためらっていては仕事にならない。「人と違い続けるためにはどうすればいいかと自己暗示をかけ続けたんです。でないと注文つけられないです。普通、ディレクターが絶頂期のパーソナリティに『面白くない』って言えないでしょう。それが言える関係になれるかどうかですよね」。節丸いわく、ディレクターはパーソナリティの「一番近いお客さん」。だから、率直なリアクションを返さないといけない。「でも、大人になるといろんなことを覚えて、それができなくなるから、若いやつがやった方がいい」。いろいろと難しい仕事なのである。

　出演者にも求められる素養はある。例えば、若手時代の節丸と出会った名パーソナリティに伊集院光がいる。９１年から９５年にかけての帯ワイド番組「Ｏｈ！デカナイト」でブレークしたが、その前に出演していたＡＮＮでは“伊集院って何者なんだ？”という不思議な空気をまだ漂わせていた。「伊集院くんは日々、面白いことを探していた。すごく尊敬すべき男でした」。何者か定まっていない人物が、全力で何か面白いことをやる。ラジオにしかない醍醐味だった。

　「タモリさんも何者でもないですよね。芸人じゃないですし。稲川淳二さんには結婚式の司会からＡＮＮやらされたっていうエピソードがあります。大槻ケンヂもミュージシャンなのに楽器を弾かない。天才だと思いますね。古田新太も…」。節丸の口から出てくる歴代のＡＮＮパーソナリティはみな、世に出た当初は正体のよく分からない人ばかり。そんな幅広さがＡＮＮ向きなのかもしれない。

　「ラジオって素を見せる場所ってよく言うじゃないですか。でも本当は素を見せている演技をする人が一番怖いです。素を見せたことさえもファンタジーだったというのが本当のすごいパーソナリティかなと。だからその点ではタモリさんですよね。普段、どんな人か誰も分からない」

　現在のラインナップでは星野源が役者ともミュージシャンとも、文筆家ともつかないマルチな活躍をしているが、それ以外の面々はシンプルなその道の人気者が集まっている。危うさ、いかがわしさは昔よりは薄れてきているのかもしれない。だが、これも時代の変化の一つで、例えばラジオアプリの「ｒａｄｉｋｏ」のタイムフリー機能で、それぞれのファンが好きな時に放送を聴き返すことも意識している。節丸は編成部長の視点で「タイムフリーで編成権が聴き手に移った。この人のラジオが聴きたいという人がいたほうがいい」と今のラインナップにも意味があると話す。

　また、１０月からスタートした「オールナイトニッポン　Ｐｒｅｍｉｕｍ」が午後７時から放送されているように、「オールナイト」と呼べないような早い時間帯の番組も生まれている。こうした指摘に「甘んじて受けます」と苦笑いした節丸だったが、「ニッポン放送はオールナイトニッポンでいいんじゃないでしょうか」と、局全体のブランドとして押し出していると語った。

　これからのＡＮＮに求められることは何か。「面白いことを追求していくとギリギリになるんですよ。エッジとかグレーゾーンが一番面白い。価値が決まってくると面白くないんですよ」。これを節丸は「面白さ原理主義」とひと言にまとめ「ギリギリやるのが一番面白い」と笑い飛ばした。追い込まれたディレクターに、さらに追い込まれたパーソナリティから絞り出てきたギリギリの言葉一つ一つが、ＡＮＮの歴史をつむいでいくのだろう。