「ビリー・エリオット」無謀挑戦の懸念一蹴はなぜ 日本の概念破る異例づくし

 日本では無名のミュージカル「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」をいきなり3カ月もロングラン公演するという無謀とも思えるチャレンジから1カ月。第1週こそ空席もあったが、口コミやSNSで評判が広がり、今では平日でも立ち見が出るほどの現象を巻き起こしている。英国のオリジナル版の世界観を守るため、日本ではおなじみの事前の宣伝手段が使えないなど、ハンデを背負って開幕した作品がなぜ-。

 プロデューサーの栗田哲氏(ホリプロ)に話を聞くと、日本の演劇界の“常識”を覆す事象だらけだった。

 ◇    ◇

 「ビリー・エリオット」は2000年に公開された同名タイトルの映画(邦題は『リトル・ダンサー』)をもとに、05年、英国でミュージカルとして初上演された。田舎の炭鉱町で育った少年・ビリーがバレエダンサーを目指し、成長していく物語。世界各国で上演され、トニー賞10部門をはじめ、世界で80以上の演劇賞を獲得した。日本では初演。

 ◆1年以上にわたるレッスン、子役育成◆

 オーディションから異例づくしだった。「20年以上ミュージカルに携わってきましたが、こんなのは初めて。1年以上をかけてビリー役を育成し、選ぶんですから」。16年4月、海外のチームが来日し、書類審査(応募総数1346人)を通過した450人を2週間かけてダンス、歌、芝居により審査。候補が10人に絞られ、翌5月にレッスンが始まった。熊川哲也主宰のKバレエ、コナミスポーツクラブなど一流のコーチ陣が指導し、タップ、ヒップホップ、体操など、個別メニューが組まれた。

 ビリー役にはバレエなどの技術や経歴よりも、「ビリーとして存在できるか」を重視。さらに(1)身長147cm以下、(2)声代わりをしていない--などの厳しい条件があり、「喉頭科の専門医が喉の発達具合をみたり、親の体格や本人の骨格を見て、この先どのくらい身長が伸びそうかもチェックしていました」。16年12月、ビリー役4人が決定(17年6月に1人が追加)した。

 大人の出演者もオーディション。「完全なガチンコ」で選ばれ、多くの有名俳優が振り落とされたという。

 これまで、日本には数多くのブロードウェーミュージカルなどが上陸した。しかし、多くは「一部の権利だけ取得」し、日本で比較的自由に作ることができるケース。しかし、「ビリー」は、子供の育成方法まで厳格にルール化。「スタッフにも“オーディション”があったんです。英語の優先順位は一番最後。厳しい中にもユーモアや愛情をもって子供たちを指導できるのか、などです」と明かす。

 ◆日本の宣伝方法はNG◆

 宣伝もオリジナル版のイメージを損なわないため、厳格なルールが。ビリー役の子は必ず、全員揃って取材対応、白地に黒文字で「BILLY」と書いたお揃いのTシャツ着用-などだ。日本では、テレビ(動画)向けに動きを出すため、出演者が笑顔で手を振るシーンをよく見かけるが、“ビリーたち”が手を振った映像を見た海外チームは激怒。その後は一切NGとなった。ポーズまで制約があるのだ。

 初日の幕が開く(完成する)まで、映像は門外不出というルールも徹底しており、稽古場の取材はNG。日本の“常識”が通用せず、宣伝チームはお手上げ状態となった。ポスターやチラシ用のジャンプやフライングシーンも角度や高さが決められ、厳重なチェックでダメ出しの連続。世界を舞台に活躍する故・蜷川幸雄氏、小池修一郎氏らとも仕事をしてきた栗田氏も「『ビリー』は本当に初めてのことばかりです」と驚く。

 徹底したシステム主義と本物(オリジナル)主義。世界の子供たちをビリーに育ててきた海外チームのノウハウには、1年以上に及ぶ育成期間での子供たちのバレエやダンス、心身両面での“想定外”の成長も折り込みずみだった。

 日替わりで出演する日本の5人のビリー役の子供たちのうち、最年少の木村咲哉くん(11)はオーディション時、9歳(小4)。本番までに身長もグンと伸びた。「子供たちは公演の間にも成長していく。今も本番のたびに新しい発見がある」。日本では“非常識”だらけの全世界共通の本国(海外チーム)のシステムも、今となっては、さまざまな局面で「正しかった」と思えるという。

 日本初演で、“無名”のミュージカルをいきなり、東京公演(7月25日~10月1日、赤坂ACTシアター)、大阪公演(10月15日~11月4日、梅田芸術劇場メインホール)合わせて126公演で17万人以上を動員しなければならない「想像もできなかった」チャレンジ。しかし、開幕から1カ月を過ぎ、成功の2文字が見えてきた。休憩中、終演後の劇場ロビー。『リピーターチケット』(※公演観劇者を対象にした割引チケット)の売り場には、“常識”ではありえない大行列ができている。一度見た観客がすぐにもう一度見たくなる-そんな現象も起こっている。

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