15年W杯代表・伊藤鐘史氏が教えます! 今からでも間に合うラグビー講座
ラグビーW杯日本代表は2連勝で1次リーグA組首位に立っている。残るサモア戦(5日)、スコットランド戦(13日)で悲願の決勝トーナメント進出をかける。開幕戦を飾ったロシア戦(9月20日)、大金星を挙げたアイルランド戦(同28日)で白星の要因の一つとなった「オフロードパス」と「ジャッカル」、1次リーグ突破の鍵にもなる「スクラム」「ラインアウト」、そしてテレビ中継で画面の左上に表示されることの多い「フェーズ」について、2015年W杯日本代表ロックで現京産大コーチの伊藤鐘史氏(38)にポイントを聞いた。
【オフロードパス】
ロシア戦でCTB中村が、WTB松島の2トライ目につなげたプレーでも見られました。一番簡単に説明すれば、相手とぶつかった後のパスのことです。何が有効かと言えば、ぶつかった後に相手を巻き込めていることです。
例えば相手に2人がかりでこられて、止められ、自分一人でぶつかった後にパスを出したとします。ラグビーは人数の勝負です。アタック側は、プラス1のアドバンテージが得られます。
とはいえ非常に難しいパスです。接触の衝撃で手元がぶれます。視野も狭くなっています。手のひらを裏返し、自分の背中側に出すこともありますが、見ていないのになぜパスが通るのか。それは、味方がここでサポートしてくれると分かっているからです。チームとして練習を重ねていかなくてはいけません。
リスクも伴います。ボールキャリアーは不利な状況になっているため、コントロールできないパスを出してしまうと、ターンオーバーが頻繁に起きます。教育上で言われるのは、相手と50対50の状況ならしない、ということ。もちろん、チャンスなら50対50でもあり得ます。
エディー・ジャパンではオフロードパスの練習はしていませんでした。ボールをキープして、相手を疲れさせるやり方でした。今のジェイミー・ジャパンはオフロードパスを重要視しています。
形だけではなかなか突破できないプレーが多く、最近はディフェンスも良くなっています。そのためオフロードパスは武器になり得ます。日本ラグビーの強みにしていけばいいでしょう。
【ジャッカル】
アイルランド戦でナンバー8姫野が、ロシア戦ではフランカーのラブスカフニが決め、勢いづかせました。このプレーをするために、まずはブレークダウンの話をします。
ブレークダウンとはボールを奪い合う場所を言い、ラグビーでは一番多く発生します。おおよそですが、ラグビーではスクラム、ラインアウト、キックオフのセットプレーが、1試合のうち10回ぐらいずつあります。キックオフは試合開始、ハーフタイム後、トライなどの後に起こるプレーです。
ボールの争奪戦で何が起こるかと言えば、アタック側はボールを確保し、ディフェンス側はボールキャリアーへタックルします。相手が倒れたなら、ボールを奪いにいきます。このボールを奪いにいく行為がジャッカルです。
ボールを奪えなくとも、相手のボールに手を絡めて、タイミングさえ良ければ、レフェリーが相手のノットリリースザボールなどのペナルティーを取ります。フランカーやナンバー8に多いプレーです。
もっとも、不必要に働きかけても、ボールに入れず、倒されてしまえば相手に有利になります。成功しなければマイナスです。
【スクラム】
相手を少しでも押すことがメンタル面にも大きく影響します。8対8の真剣勝負。FWの意地と意地のぶつかり合いです。例え1メートルでもプッシュできれば、相当な自信になります。
日本代表はサモアに対してセットプレーで優位に立てます。だからと言って、個々ではなく8人が結集することが大事。低さの部分でアドバンテージを持ってほしいものです。相撲と一緒で、低い姿勢が強みとなります。
私はロックでしたが、組む際、前列3人の後ろに位置する5人で大事なのは、いかに前のプレーヤーに接地しているか、ということ。前だけが先にいくと後ろが離されます。ナンバー8の足からいくイメージで、力がうねりとなって前にいきます。そこの呼吸がポイントで、8人で一緒に上がっていくタイミングをつかむ練習を積むのです。
【ラインアウト】
前回の日本代表と少し違うのは、前回のジャパンは相手の陣形を見て、ここにスポットがあくだろうと思い、できるだけシンプルにボールを取るイメージでした。今のジャパンはオプションも用意しながらテンポとスピードを混ぜていて、うまくやれています。
ボールの獲得には、投げ入れるスロワーの精度と、サインをコールするサインコーラーの役割が絶対条件。かつてはスロワーがサインを出していましたが、現代ラグビーはボールをキャッチするジャンパーが出しています。というのもジャンパーは相手の陣形を平面で見ており、スロワーはどこにギャップがあるのかが分からないからです。
私はサインコーラーを務めていました。サインですが、テストマッチで相手にバレることはそうそうありません。ただ、例えばトップリーグで日本人同士の対戦となったとき、バレそうだと思ったら、事前に耳打ちで伝えるとか、何試合かごとに変えるとか、対策が必要になります。
【フェーズ】
日本代表の強みでもあるのが、前回と今回と同様に、ボールをキープしてアタックしていくプレーです。1次、2次、3次…と重ねていく連続攻撃のことです。ブレークダウンが起きることで、フェーズは増していきます。
いかに早く、そしていいセットができるかがポイントです。ディフェンス側はフェーズを重ねられると、的が絞れなくなります。
フェーズの回数は無制限ではあるものの、多ければいいというものでもありません。重ねることでお互いに呼吸がつらくなっていきますし、疲れた状況でどれだけできるか。努力の形が見えやすいところがあります。
今回指標となっているのは、日本代表がボールインプレーの時間を40分にしようとしていることです。ラグビーの試合時間は80分ですが、ボールが動いている機会はさほど多くありません。スクラムやラインアウトなどの際は、ボールが動いていない状況が生まれます。
ボールインプレーの時間はおおよそ30数分。日本代表はそれを40分に持っていき、相手を自分たちの土俵に乗せたいと考えているのです。(2015年W杯日本代表ロック。現京産大コーチ)




