岡沢セオン 初の夢舞台で金目指す 独創性あふれる練習でパンチの質と精度UP

 ボクシング男子ウエルター級日本代表の岡沢セオン(25)=INSPA=は、コロナ禍で延期となったこの1年でフィジカル強化に取り組み、5月の国際大会で優勝するなど成長を遂げた。練習拠点の鹿児島県鹿屋市で「プロのアマチュアボクサー」として初の五輪へ挑む思いを聞いた。

 今年4月、岡沢は「プロのアマチュアボクサー」になった。指導員として3年在籍した鹿児島県スポーツ協会を離れ、自らスポンサーを募集。今は20社ほどの支援を得た。アマボクサーとしては異例の活動形態だ。「夢がかなった。いろんな人に助けられて、自分のボクシングに価値が出たような気がする」と奮起している。

 “プロ初戦”となったコロトコフ記念国際トーナメント(5月、ロシア)では、強豪ウズベキスタン選手らを破って優勝。1年2カ月ぶりの海外勢との試合で存在感を見せた。「確実に1年前より今の方が上が狙える」と大きな自信を得た。

 五輪が延期された1年。セオンは“虎の穴”で黙々と爪を研いできた。日大山形高、中大まで全国的なタイトルを手にすることはなかった遅咲き。大学卒業時には競技を引退し大手PR会社へ就職することが決まっていた。しかし、後輩から鹿児島での国体要員の募集を聞き、内定先を断って、縁もゆかりもなかった地へ移った。

 練習拠点とするのが大隅半島に位置する鹿屋市のボクシングジム、ワイルドビースポーツ。ここで初めて練習した時のことを岡沢ははっきりと覚えている。サンドバッグを打っていると、県連盟の強化委員長でもある荒竹俊也会長(46)に「やばいね、動き。五輪に出られるんじゃない?」と声をかけられた。「まだ全日本王者でもなかった。大学を出て初練習でとりあえず国体を目指していた頃」

 ここでの荒竹会長の独創性あふれる練習が、潜在能力を引き出した。岡沢がこの1年で特に進化を感じているのが「パンチの精度と質」。アマの採点で特に重要になる“見栄え”の部分でもある。

 その基盤は、入門以来続けてきた、毎日行うフィジカルトレーニングの積み重ねによってつくられてきた。例えばストレッチポールやバランスボードの上で負荷をかけて動く。ロープでつないだテニスボールやスポンジを的に打つ。足場も標的も不安定な中、フィジカル、持久力、バランスを保つ神経などが鍛えられるという。

 「引き出しが増えて動ける筋肉がついた。神経と会話できるようになった」と荒竹会長。体幹を鍛えても、それを使えなければ意味はない。岡沢自身も「僕のボクシングは動き回る。その中で安定した状態を一瞬だけつくってパンチを打ち、また動き始める。最近はそれができている」と実感している。

 優勝した5月の国際試合では1回戦でウズベキスタン選手に初回ダウンを喫しながら、動じることなくポイントを重ねて判定勝ち。これまでは強豪の圧に屈する「当たり負け」が課題だったが、「今回は自分の土俵の中で相手を動かしている余裕があった」と振り返る。華麗なだけでなく、主体的で攻撃的なアウトボクシングを手に入れた。

 東京五輪へ向けてアマボクシング界は波乱の道程をたどった。国際ボクシング協会の不祥事で実施競技の除外ピンチ。コロナ禍。岡沢自身は昨夏の九州豪雨でジムが浸水するピンチにも見舞われた。しかし、その運命の中で岡沢の姿勢は一貫していた。「見ている人が面白い試合がしたい」。3分3ラウンドに凝縮された技術の応酬。プロとは違う魅力を知ってほしい。「生涯アマ」を宣言し「プロのアマ」を名乗る意図もそこにある。

 「僕が金メダリストになれば、国内大会を見たいという人が出てくるかもしれない」。伸ばしかけの髪を「色気づいた」と笑いながら「何でもいいから目立ちたい。僕はピエロと思われてもいい。とにかく見てほしい」。競技の未来を背負って、セオンが大舞台に立つ。

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