新井、経験不足を露呈 「五輪コラム」

 3日前の予選とは別人だった。初めて経験する五輪の大舞台で、陸上男子やり投げの新井涼平は「何もできなくなっていた」という。全体4番目の84メートル16をマークした時の、リラックスした構えから軽々とやりを投げ出していたフォームには程遠かった。

 ▽早めの80メートル台

 2年前の長崎国体で、日本記録へあと77センチに迫る86メートル83を投げて世界へ名乗りを上げた。翌年の世界選手権(北京)では、予選で84メートル66のシーズンベストを出して決勝に残り、初舞台でも9位(83メートル07)と健闘した。

 今季も6月下旬の日本選手権で、雨中の悪条件下ながら84メートル54と2年連続の大会新記録をマークしたが、5回目の投てきだった。長崎国体でも記録を出したのは6投目。勝負強いとの評価もできるが、国際試合はこれでは戦えない。

 この日の入賞者8人中、2回目までに当日のベストを出したのが6人。優勝したトーマス・レーラー(ドイツ)だけは最終の6投目に90メートル30の逆転アーチをかけたが、初回にメダルを確定する87メートル40を投げている。

 「1投目の入りから悪かった」という新井の1回目は、予選記録を6メートル以上も下回る77メートル98。2投目にこの日のベスト79メートル47を投げたが、残る1投でベストエイトの記録82メートル42を越えるのは難しい。せめて1投目に80メートルラインを越えていれば、決して抜けない記録ではなかった。

 ▽欧州での武者修行

 中学時代は野球に熱中していた新井は、埼玉・皆野高でいったんホッケー部に入ったがすぐに退部。たまたまテレビ観戦した2007年世界選手権(大阪)で優勝したテロ・ピトカマキ(フィンランド)の高く美しいやりの放物線を見て感激。すぐに転向を決意したという。

 自分でも練習を工夫し、高校3年のインターハイで4位に入り、やり投げの指導には定評のある岡田雅次監督の国士舘大で腕を磨いた。卒業後は世界選手権銅メダルの実績を持つ村上幸史のいるスズキ浜松ACに入った。14年4月にそれまでの記録を一気に7メートルも伸ばす85メートル68を投げ、この種目の第一人者になった。

 オフにはやり投げの伝統国、北欧で合宿を重ね、今季も最高峰のダイヤモンドリーグを転戦してトップ級と渡り合ってきた。それでも、初舞台の五輪では日頃の力の半分も出せなかったのが現実だ。

 四半世紀以上前の1989年、今も破られない87メートル60の日本記録を樹立した溝口和洋は、ダイヤモンドリーグの前身のGPシリーズに日本人として初めてフル参戦し、シーズンランキング2位の好成績を収めた。ハンマー投げの室伏広治や400メートル障害の為末大らも同様の武者修行を積み重ね、大舞台で力を発揮する下地を築いている。

 183センチ、95キロ。技術もパワーも世界で十分に戦える素材だけに、ぜひ欧州の本場でシーズンを通して戦う経験を積んでもらいたい。

(船原勝英)

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