金メダルへ…ジャンプ沙羅の強さの秘密

 いよいよ、約7カ月後に迫ったソチ五輪。グルジアにほど近い、ロシアの国境沿いで行われる22回目の冬季五輪で新たに採用されるのが、ノルディックスキーの女子ジャンプだ。その初代五輪女王の座が期待されるのが、昨季W杯個人戦でジャンプでは男女を通じて日本人初の年間総合王者に輝いた高梨沙羅(16)=クラレ=だ。身長152センチと小柄な高梨が、なぜ遠くへ飛べるのか‐。強さの秘密と、新ルールが導入される五輪シーズンに向けた“今”に迫った。

 濃い緑の木々が山肌を埋める、6月の札幌。28日から男女合同で行われていた今季初の代表合宿には、緑色のブレーキングトラックに向かって空を飛ぶ高梨の姿があった。初日の公開練習では7本のジャンプを飛んで、いずれもK点(90メートル)を越えた。「毎年(ジャンプ練習を始める)シーズンインはあまり調子が良くないのですが、この時期としてはいい方ですね」。いつも通りの控えめな表情と口調だったが、充実感がにじみ出た。

 ソチ五輪で新規採用される女子ジャンプ。女子が戦うノーマルヒルに関しては、踏み切り時の速度は時速80キロを超えるスピード競技だ。高速移動の中で一瞬の踏み切りのタイミングを見極め、空中姿勢、着地時にテレマークへとつなげる。

 めまぐるしく変わる風も影響するだけに、全日本の小川孝博チーフコーチは「100点満点のジャンプというのは、本当にないと思う」と、その難しさを語る。「何かでミスをし、別の何かで取り戻すのがジャンプ。結果として1位になっている選手というのは、失敗をどこか別で補って、完成度の高いジャンプをしている」と説明する。

 昨季のW杯で全16戦中8勝を含む表彰台13回と抜群の安定感を見せた高梨の、総合的な技術の高さが数字に表れている。

 身長152センチと小柄ながら、女子ジャンプ界で結果を出し続ける高梨。強さの秘密について、小川コーチは「(踏み切りの)タイミングやテークオフの方向だったりのミスが少ない。ミスは本人も感じている部分もあるし、僕らも見ていて感じるが、そのミスを最小限に収めている。あと優れているのはスピードですね。踏み切り時もだが、空中スピードを映像などで比較しても(他選手よりも)秀でている」と分析する。

 技術面とともに強さを見せるのは、精神面。「自分を持っていて、それでも我々の意見にも耳を傾けた上で、自分のジャンプを完結するという力がある」という。そんな高梨の強さは全日本チーム内にも“伝播”する。「高梨が頑張っていて、あの結果を出している。他の選手たちも、『私たちも同じ場所で同じ練習をしているのだから、頑張ればできる』という自信になる。先輩たちの伝統もあって、チームとしてまとまっている。決して高梨だけに負担がかかっているわけではない」

 ソチ五輪まで約7カ月。夏場のトレーニングを、小川コーチは「一般論としては、基礎トレーニングによる体力づくりと、サマージャンプの大会でジャンプを固めていく時期」と位置づける。

 全日本としての活動時期は限られているだけに、選手個々の日々の過ごし方が重要になってくる。高梨は「(去年からの課題である)テレマークを入れるために、前重心のジャンプをしているが、ちょっとずつ慣れつつある。これは練習あるのみ」と、自らに言い聞かせるように話す。

 スポーツ・サプリメントなどのウイダー・ブランドを展開する森永製菓に、昨年から栄養・トレーニング面でサポートを受けており「体力がついてきた。夏場は本数も多く飛ぶ時季だけど、今は長時間の練習でもバテなくなってきた」と順調だ。ウエートトレーニングも導入し、総合力の底上げに努めている。

 北国の夏は短い。だが、高梨沙羅は濃密な時間を過ごし、力を蓄えている。ソチ五輪で大輪の花を咲かせるために。

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