辰見が見せる盗塁のすごさ
辰見が代走で盗塁を積み重ねている。3日の中日戦(バンテリンドーム)ではシーズン25個目の代走での盗塁を決め、日本記録に並んだ。昨年の現役ドラフトで加入したときは、こんなに活躍するとは誰も想像していなかったはずだ。本人の努力と勇気のたまものといえる。
「100%走ってくる」と分かっている極限の場面で、いかに盗塁を決めきるか。辰見が見せる盗塁のすごさは、単なる足の速さだけではない。相手投手の傾向やけん制パターン、クイックタイムを徹底的に研究している点にある。イチかバチかのギャンブル的な要素が見えないからこそ、失敗が少ないのだと思う。
盗塁のスペシャリストが塁に出ると、投手は打者に向けたい意識の20~40%を奪われてしまう。クイックでの投球を意識するあまり、制球が乱れたり、配球が直球寄りに片寄ったりするなど雑念が生じる。盗塁を決められれば、内外野の守備隊形もガラリと変わる。
私も現役時代、そうした足のスペシャリストたちには常に苦しめられた。特に厄介だったのは阪神・赤星憲広だ。何度対戦しても本当に速く、けん制で刺した記憶がほとんどない。
「いっそのこと、早く二塁に行ってくれ。そうすれば、クイックも気にせず打者と勝負できる」と、割り切りたくなるほどの脅威だった。一方で、巨人の鈴木尚広は「走らないと見せかけて走る」という高度な心理戦を仕掛けてくるため、必要以上に気を散らされた苦い記憶がある。
そうした走者を抑えるため、私がけん制で大事にしていたのが「3つのT」。1秒未満で素早く回る「ターン」、野手が捕ってすぐ刺せる位置に投げる「タッチ」、そして最も重要なのが「タイミング」だ。
走者は常に投手だけを見ている訳ではなく、捕手の構えやサインを見ようとして一瞬、目を切ることがある。その一瞬を見逃さずにけん制していた。走者に「危ない」と頭から戻らせるけん制を1球でも入れることができれば、心理的に優位に立つことができ、リードの幅も小さくさせることができる。
二塁へのけん制は、二遊間との連動が全て。私の現役時代の主な遊撃手は梵だった。彼が守っていた時は、あうんの呼吸でノーサインでもけん制を入れていた。二遊間を守る選手も投手と同様に、自身の動きなどで走者のスタートを遅らせることができる。
シーズンは大詰め。次の塁を狙う辰見と、それを阻もうとけん制を入れる投手。その攻防は大きな見どころだけに、最後まで目が離せない。辰見がどこまで数字を積み上げるのかも注目だ。(デイリースポーツ評論家)
◇横山竜士(よこやま・りゅうじ)1976年6月11日生まれ、50歳。福井県勝山市出身。現役時代は右投げ右打ちの投手。178センチ、80キロ。福井商時代は甲子園出場はなかったが、1年秋からエースとして活躍。94年度ドラフト5位で広島に入団。97年に中継ぎながらプロ初勝利を含む10勝を挙げる。先発、中継ぎ、抑えと幅広く活躍し、プロ20年目の2014年に現役引退。通算成績は507試合に登板、46勝44敗17セーブ110ホールド、防御率3・42。20年から昨季まで広島で投手コーチを務めた。
