侍戦士・DeNA牧秀悟の恩師が明かす秘話 小2で4番に立候補「使うな」の雑音を黙らせた努力

 8日に開幕する第5回WBCで2009年大会以来の優勝を目指す侍ジャパン。代表に名を連ねた選手たちの原点、素顔に迫る「侍外伝」の第4回は、DeNA・牧秀悟内野手(24)だ。野球を始めた小学生時に所属していた「キングアニマルズ」の監督、畔上浩一さんが衝撃の“4番デビュー”の秘話を明かした。野球が大好きだった牧と恩師が二人三脚で歩んできた成長の日々をたどった。

 真っすぐに伸びた手が忘れられない。小さな手を目いっぱいに上げた瞬間、「4番・牧」が誕生した。2006年10月。まだ野球を始めて1年少しのやんちゃ坊主に突然の“好機”が飛び込んだ。

 小学2年生。試合前に砂場で遊んでいた時だった。当時4番を打っていた6年生が不振から「もう4番打つの嫌です。代えてください」と直訴。「代わりに、誰か打ちたい子はいるか?」-。この監督の一言に、牧はすぐさま立候補した。3歳上の兄の影響を受け、1年生から野球を始めたばかり。それでも、輝く瞳にかけた。

 「打ちたいなら打ちなさい。一生懸命やればいいよ」

 周囲の雑音はすさまじかった。「4年生以下を使うな」と他の監督に文句を言われる日もあった。それでも、畔上監督は信じた。「打っても打たなくても、全力で振る子。6年生がエラーしても絶対に文句言わなかったよ、牧は」。メンバー16人しかいない中で、背番号は最後の「16」。そこから6年生までの4年間、一度も4番から外したことはない。飛び交ったさまざまなクレームを牧自身が結果で消し去り、次第に静かになった。

 野球が大好きだった。練習日外だった火曜は毎週決まって畔上監督の家へ。4キロのランニングに一緒に出かけた。「『ただいま』か『トイレ貸して』って勝手に入ってきてね。最初の1回だけ一緒に走ったけど、それからはずっと自転車だったよ」と、笑いながら振り返る。そして金曜は祖父の家のネットを張ってもらい、ひたすら打撃練習。監督が「もう練習やめなさい」とストップをかけるまで、練習に明け暮れたのが“努力家・牧”の原点だ。

 「全てが楽しそうで、打つのも投げるのも好き。練習なんて大好き。負けても野球ができたら楽しそうな子でしたよ」。そんな牧が、唯一感情をあらわにした試合がある。小学6年生時に臨んだマクドナルド杯、大豆島戦だ。この試合に敗れ、「初めて見た。でも『相手のキャプテン、俺より髪の毛短かった』って悔しがって泣いていた。そういう子です」。悔しさをひたむきに隠し、受け止めた。

 土日は全て試合に出場。年間で200試合は消化したという。スーパー小学生時代を送ったが、決して恵まれた環境ではなかった。長野県中野市出身。早く降り始める雪に、長く残る冬景色。当時はまだ室内練習場がなかった牧は、地下歩道でひたすら走り込んだ。時には畔上監督が他チームへの練習参加を勧め、自動車で送迎。「練習場所がなかったからね。『ここの監督に教わりなさい。迎えに来るまで練習しなさい』ってその場所に置いてきていました」と“荒療治”も行った。

 小さなチームで、大きな4番に育った牧。松本第一高時には県大会初戦敗退に涙し、中大に進学。「何学部に入るんだ?」と聞けば、「野球部です」とまじめに胸を張る。真っすぐに、太く伸びた木はしっかりと地に根付き、世界一奪還メンバーに名を連ねるまでになった。「出していただけるだけでありがたいね」。大好きな“子ども”が見せる夢に、願いを込めた。

 ◆牧 秀悟(まき・しゅうご)1998年4月21日生まれ、24歳。長野県出身。178センチ、95キロ。右投げ右打ち。内野手。松本第一から中大を経て、2020年度ドラフト2位でDeNA入団。21年8月25日・阪神戦(京セラ)でサイクル安打。ベストナイン1回(二塁手・22年)。

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