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ノムさん 調子の上がらないマー君に好助言「直球は慎重に、変化球は大胆に」

ノムさん 調子の上がらないマー君に好助言「直球は慎重に、変化球は大胆に」
【2013年3月15日デイリースポーツ紙面より】

 野村克也氏といえば、球界一の理論家として知られ、多くの著書や「ノムラの考え」などの評論で野球の奥深さを伝えている。そして「ノムさんのぼやき」は有名なのだが、最近は“77歳の暴走老人”かと思えるほど、出てくる言葉は過激である。WBC日本代表の山本浩二監督に対しても「キャリアも実績もないのになんで代表監督なんだ。オレに監督をやらせればいいのに」と言った具合である。一方で楽天監督時代の教え子、調子の上がらない田中将大投手には「前々から言っているように直球は慎重に、変化球は大胆に」などと好アドバイスが送られる。こうした両面にこれまでの「ノムラの功罪」を見る思いがする。

 ▽勝ちに不思議の勝ちあり

 「侍ジャパン」は薄氷を踏むような試合もありながら1、2次ラウンドを突破して、いよいよ17日(日本時間18日)からの準決勝、決勝(米サンフランシスコ)に臨む。なるほど、野村氏の言う通り「ラッキーで勝てただけ」とも言えるが、調子の上がらない3月の試合や国際試合の独特の雰囲気を考えれば、ピンチをチャンスに変えての勝ち上がりは悪くない。過去のWBC2連覇もピンチの連続だったからだ。

 ただ、野村氏がいつも言う「負けに不思議の負けなし、勝ちに不思議の勝ちあり」からすれば、きっちり勝因や敗因を分析しないと、勢いだけでは3連覇は達成できないよ、と言っているのだ。しかし、多くの人が素直に聞けないでいる。

 ▽古田氏ら多くの教え子

 野村氏は南海(現ソフトバンク)ロッテ、西武で27年間の現役生活を送り、捕手としてだけでなく打者としても大活躍した名選手だ。通算3017試合に出場し通算2901安打、657本塁打を残し、戦後初の三冠王となった。35歳の若さで南海の監督となりヤクルト、阪神、楽天で通算24年間も監督を務めた。社会人野球シダックスで3年間監督も経験した。ヤクルトを3度の日本一に押し上げたほか、南海で1度のリーグ優勝、楽天を2009年にクライマックスシリーズまで導いている。多くの野村野球の教え子がいるが、あの江夏豊投手を先発から抑え役に転向させるなど選手を見る目は確かで、埋もれている選手を戦力に仕立てる手腕は球界で注目の的だった。

 ▽原点は考える野球

 野村野球はID野球と言われる。その原点は「シンキングベースボール(考える野球)」。情報収集、分析、観察、戦略などでそれまでの日本野球になかった合理的な野球を目指した。「確率の高い野球」である。野村氏が理論に裏付けされた指導で、その地位を不動のものにした。元ヤクルトの古田敦也氏は野村野球の申し子とも言われ、侍ジャパンの作戦担当、橋上秀樹コーチもそんな一人である。

 間違いなく名将である。示唆に富んだ多くの格言でも知られる。先の「負けに不思議…」のほか「一流と二流の差は頭脳と努力の差」「才能には限界がある。でも頭脳には限界はない」などがある。

 ▽初の夜回り相手が野村氏

 私が四十数年前、野球記者として最初に「夜回り」したのが野村氏だった。当時、南海の次期監督候補だったが、なにせ口数が少ない上に話すのがゆっくり過ぎて、なかなか話がかみ合わなかった記憶がある。ちなみに沙知代夫人と再婚する前の話である。達筆でも知られ、彼の書く色紙は貴重なものだ。ただ、貧しい母子家庭に育ったためか、独特の生活信条があるようで、一流志向は半端ではない。自らひねくれ者というように、こうした性格が“孤立”を招く一因となっているようだ。

 野村氏の下で長年にわたってコーチを務め名参謀と言われた故高畠導宏氏がヤクルトのコーチに招かれながら、わずか1年で野村氏と決別した。真相は分からないが、指導者として人望を集める同氏へのしっとなどが原因とされた。高畠氏も「野村さんは南海時代とすっかり変わっていた」とインタビューに答えた。野村氏が阪神3年、楽天4年で監督を辞めたのも成績はともかく、扱いの難しさに球団が音を上げたといったところだろう。誰もがWBC監督を一度はやらせてみたいと思っても、なかなか実現しない理由はこのあたりだろう。

 ▽日体大客員教授に

 以前、このコラムで「東大野球部は野村氏を監督にでもすれば変われる」と書いたが、なんと日体大が4月から野村氏を客員教授として招く。その見識を高く評価したのだろう。学生野球憲章の関係ですぐに野球部の指導はできないが、「ノムラの考え」を学べるのは野球部員に限らず、スポーツを専門に学ぶ日体大生にとってプラスになるだろう。

 野村氏は「野球は私の人生そのもの」と言うだけあって、野球がとことん好きだ。ヤクルト監督時代も試合前のベンチで、若い担当記者と飽きもせず野球の話をしていたのをよく目にした。中日の落合博満前監督が「記者は野球を勉強しようともしない」と無視していたのと好対照だった。「野球の奥深さをしっかり勉強してくれ」は野村氏の本音の部分だ。WBCの選手に限らず、選手たちは耳を傾ける価値はあると思うが、それにしても、つくづく人間の難しさを痛感させられる人物、それが野村氏である。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。

ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆

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