【野球】セオリーにしばられないさい配 ヤクルト・小川淳司は「勝てる監督」

  【2012年5月15日付デイリースポーツオンラインより】  プロ野球は16日から約1カ月間のセ・パ交流戦に突入する。2005年から始まった交流戦は戦い慣れた相手と違うため波乱含みで、前半戦のヤマ場となる要素が強い。

 ▽交流戦最中に代行に

 ヤクルトの小川淳司監督が1軍の指揮官としてデビューしたのは2年前の交流戦の最中だった。2010年5月、前任の高田繁監督(現横浜DeNAのGM)が13勝32敗1分けの成績で退任。交流戦での9連敗という無残な戦いぶりが、退任の理由だ。小川監督代行はその後の98試合を59勝36敗3分けで乗り切り、オフに監督に昇格した。昨季は一時独走状態だったが、故障者続出で息切れして、終盤中日に逆転され2位に甘んじたが、今季も勝率6割前後で序盤戦はがっちり2位にいる。「勝てる監督」である。

 ▽セオリーにしばられないさい配

 数人のプロ野球記者に小川監督はどんな監督で、どんな野球をやろうとしているかを聞いてみたが、「よく分からない」という答え。小川監督は自他ともに認める“超地味”な性格で、なかなか本音が聞こえにくいこともあろうが、多分「小川野球」をひと言では表現しづらいのだろう。今季のヤクルトは青木宣親外野手が大リーグに行き、バレンティン選手を除けば、タイトルを取るような日本人選手はいない。投打のバランスのよさで接戦をものにしているという印象だ。小川監督が「野球に正解はない」と言っているように、セオリーにしばられず、固定観念を排して試合に臨んでいる。なにより感情に左右されない選手起用は、選手たちには「心地いい」と思う。

 54歳の小川監督は千葉・習志野高時代、夏の甲子園の優勝投手となり、中央大では日米大学野球の日本代表として、岡田彰布オリックス監督や原辰徳巨人監督とクリーンアップを組んだ。プロではヤクルト10年、日本ハムで1年プレー。940試合で412安打、66本塁打の成績を残した。

 ▽無欲と強い意思

 2年前、監督就任が決まったとき、「(プロ野球で)実績もネームバリューもない自分でいいのかな、というのが正直な気持ち」と言っている。ヤクルトはスター選手だった荒木大輔投手コーチを監督に就任させるのが既定路線で、小川監督代行も「そう思っていた」そうだ。球団が監督代行での実績と選手育成の手腕を買った結果の“逆転就任”となったが、小川監督は「次のために」2軍行きを希望した荒木氏を1軍投手コーチに就任させた。ここに2つの顔が見て取れる。欲がない、しかし引き受ける以上は勝てるチームづくりのために必要な人材配置を実現させる意思の強さである。

 ▽スカウトと2軍監督を経験

 現役時代、当時の野村克也監督の深い洞察力など広い視野で野球を捉えることを肌で感じたという。さらにヤクルトでの3年間のスカウト経験と9年間の2軍監督は「得難い財産」になったと思う。小川監督はあるインタビューでこんなことを言っていた。「スカウト時代、積極的に接触しなかった選手がプロでこんな選手になるのかと何度も驚いた。人への判断を早くし過ぎてはいけない」「監督代行のとき、得点力不足を感じ、打力のある(2軍の)畠山を、守備に目をつむって1軍に呼んだ」。なかなかの人物である。

 昨年、日本一になったソフトバンクの秋山幸二監督も2軍での指導経験があり、私には小川監督とだぶって見えるが、選手を生かそうとするあまり、勝負どころで「非情」になれないところも似ているように思う。日本シリーズのような短期決戦では課題になるのではないかと見ているのだが。

 ▽早くも148勝

 つい先日、楽天・星野仙一監督が投手出身として初の1000勝監督となった。史上12人目。元南海(現ソフトバンク)監督だった故鶴岡一人氏の1773勝を筆頭に、故三原脩氏、故藤本定義氏、故水原茂氏、野村克也氏がトップ5に名を連ねる。そして6位の故西本幸雄氏(1384勝)と7位の上田利治氏(1322勝)はプロ選手としての実績はなかったが、名監督として名を残した。小川監督は実質2年間で148勝(5月15日現在)を挙げている。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。

ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸男」(共著)等を執筆

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