元中国新聞記者でカープ取材に３０年以上携わった永山貞義氏（７１）がデイリースポーツで執筆するコラム「野球爺のよもやま話」。広島商、法大でプレーした自身の経験や豊富な取材歴からカープや高校野球などをテーマに健筆を振るいます。

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　若者は未来を語り、老人は過去を語るという。この説にのっとり今回、わが老人が語りたいのは米教育リーグのことである。ここはかつて、カープの若者にとって、未来を切り開く足掛かりとなった鍛錬の場。これがひいてはカープ栄光の時代を招いたとあれば、太字で記しておくべき過去といってもいい。

　そもそも米教育リーグというのは、大リーグがシーズンオフに設けた若者向けのリーグ戦。カープは１９７０年、山本浩二、衣笠祥雄ら６選手を派遣したのを手始めに、その後は９０年まで生きのいい若者を送り込んでいる。

　このうち老人が今回、語ろうとしているのは、フロリダ州ブラデントン市にあるパイレーツのキャンプ地に同行した７７年のあれこれ。チームとしては、参加選手が２４人と７２年に次ぐ大規模な派遣である。

　７７年といえば前回、投手陣の崩壊から北別府学、大野豊、山根和夫、小林誠二の若い芽が出てきたと書いた年。野手では木下富雄、高橋慶彦が台頭し、長内孝、山崎隆造も有望な若者と見なされ、派遣メンバーに加わっていた。

　こうした未来を夢見る集団の中で、ひときわ現地で注目を集めたのが同年、スイッチヒッターとして頭角を現した３年目の高橋慶。特にその足にはパイレーツのターナー監督もぞっこんほれ込み、走塁やセーフティーバントを熱心に指導していた姿が目に焼き付いている。

　そのかいもあってか、翌年の７８年には遊撃に定着し、打率３割２厘、１５盗塁をマーク。以後は「機動力野球の申し子」として３度の盗塁王、いまだ破られていない３３試合連続安打のプロ野球記録を達成するなど大活躍している。

　また非力だった木下も同年には２割８分３厘の打率を残し、二塁のポジションを確保。投手陣では北別府が１０勝、大野が３勝を挙げたのも、米教育リーグの成果と見てもいいのだろう。

　私といえば、７７年当時はカープ番３年目の駆け出し記者。これら若鯉の動向をパイレーツの宿舎で寝食を共にして２０日余り伝えたが、そんな仕事の中身よりも、ここでしでかした多くの失態の方が思い出深い。

　そのうちの二つを書きつづると、元凶となったのは、もちろんチンプン、カンプンの英語。それゆえ毎夜、電話のコレクトコールで本社に原稿を送るのが憂鬱（ゆううつ）だった。一番のネックは「９１－１１１１」という当時の電話番号。これを「ナイン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン」と叫んで申し込まれれば、向こうの電話交換手も何回、「ワン、ワン」と言われたのか分からなかったのもうなずける。かくして毎度、ペラペラと問い返され、あげくは声を出して笑われるがオチだった。

　原稿を送るまではダウンタウンにあるショッピングセンターで、夕食の後、お土産の買い物をするのが楽しみな毎日。カープナインとともにタクシーに分散し、喜々として出掛けたものである。

　こんな日常でのある日、私は閉店後になぜか一人取り残され、徒歩での帰還を余儀なくされた。約５キロの道のりはうろ覚えで歩道もなく、周囲はオレンジ畑かブッシュという暗闇の世界。途中、オレンジ畑の番犬に「ワン、ワン」と何度、ほえられ、追いかけられたことか。その都度、ブッシュから毒蛇が飛び出してくるかもしれない恐怖にもおびえながら、１時間余り歩き続けて、やっと生還したのだった。

　この逸話はカープナインの間でも知られていたよう。その後、同教育リーグに派遣された若手が帰ってくるたびに、「あそこを歩いて帰ったらしいですね」と言われ、「そうなんよ。向こうでは何かにつけ、ワン、ワンに泣かされたんよ」と答えたものだった。こうした失敗談も今となっては、旅の恥はかき捨てとして、大いに笑って語られる過去である。

　永山貞義（ながやま・さだよし）１９４９年２月、広島県海田町生まれ。広島商高－法大と進んだ後、７２年、中国新聞社に入社。カープには初優勝した７５年夏から３０年以上関わり、コラムの「球炎」は通算１９年担当。運動部長を経て編集委員。現在は契約社員の囲碁担当で地元大会の観戦記などを書いている。広島商高時代の６６年、夏の甲子園大会に３番打者として出場。優勝候補に挙げられたが、１回戦で桐生（群馬）に敗れた。カープ監督を務めた故・三村敏之氏は同期。元阪神の山本和行氏は一つ下でエースだった。