根本氏「ラーメン屋のせがれだぞ」 世界の王と選手の“段差”解消した名台詞

 野球ファンの心に、いつまでも残る言葉がある。「我が巨人軍は永久に不滅です」(長嶋茂雄)、「ベンチがアホやから…」(江本孟紀)、「負けに不思議の負けなし」(野村克也)などなど、折に触れての名言・珍言は少なくない。そんな語り継がれる言葉と、そこに秘められたドラマにスポットを当てる。

  ◇  ◇

 戦いの渦中にいるからこそ口を突く熱い言葉や、バットを置くことになったスター選手の感情のこもったあいさつなどとは趣を異にする。

 「ラーメン屋のせがれだぞ」

 しかし、この言葉は内部で発せられたものでありながら、瞬く間に広まった。

 故根本陸夫。

 ダイエー球団(現ソフトバンク)は前年98年オフにサイン盗み、いわゆるスパイ疑惑で球界を騒がせることとなり、パ・リーグ特別調査委員会によって社長、代表に対する戒告および職務停止処分が99年1月18日に下された。

 これを受けてダイエーは当時球団専務だった根本を社長に昇格させる。

 開幕直前、選手、スタッフを集めてのシーズンに向けての訓示の一部が、この言葉だ。「ラーメン屋のせがれ」とはもちろん、当時の王貞治監督(現ソフトバンク球団会長)のことだ。

 “世界の王”が巨人と決別し、ダイエー監督就任のため福岡の地に立ったのが94年オフだった。11月のファンイベントは福岡ドーム(現ヤフオクドーム)が満員となった。

 しかし、王監督初年度(95年)は5位、96年は最下位、97年は4位とBクラスに低迷。そして、98年に王ダイエー初のAクラス入りを果たした直後に発覚したスパイ疑惑だった。

 前年の97年オフには脱税疑惑もあって、王監督とは無関係に、ダイエーは『オフの主役』の汚名を着せられることとなる。

 根本はダイエーの監督、管理部長などを兼務している最中(93、94年)に、王招聘(しょうへい)に動く。常識を超えた人脈と発想力で、自身と関わりのない球団同士のトレードまで成立させてしまう“球界の寝業師”は、王は巨人に復帰するよりパ・リーグの盟主としてトップにいてこそ球界は発展すると考えた。

 多少の不祥事で王のキャリアに泥を塗って終わらせるわけにはいかない。同時に、その泥を洗い落とすには、勝つしかないのも事実だった。

 そして根本はこの4年間、『王貞治』の名前が、実は躍進の妨げとなっていると感じ、不祥事を乗り越え、自身が球団社長として迎えるシーズン直前、あえて根本にしか言えないバンカラな表現を使った。世界の王と、ナイン、スタッフを隔てていた“段差”は一発で解消された。

 直後、根本は心筋梗塞により急逝する。4月30日のことだ。アンタッチャブルに神格化された世界の王は、根本の遺言とも言えるひと言によって、ダイエーの監督として縦横に采配を振り、選手はのびのびと活躍し、この年、日本一にまで駆け上がった。

 王監督就任の95年から2017年までダイエー、ソフトバンクのリーグ優勝8度。巨人は同時期に9度。こんな時代が来ることを、根本は見通していたに違いない。

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