甲子園の“下克上エース”未勝利で去る

 「第二の人生、プレーボール!」

 だれもが大きな夢と希望を胸に抱いて飛び込んだプロの世界だ。十分にやり尽くしたと納得してユニホームを脱ぐ選手。野球への未練を断ち切るのに長い時間を要する選手。そんな彼らの第二の人生へ。エールの思いを込めてプレーボール!

 かつてのドラフト1位は人気のない室内練習場にいた。打者も捕手もいない。一人ネットに向かって投げていた。10年に日本文理大から入団したオリックス・古川秀一投手(28)だ。長崎・清峰ではエースとして甲子園に出場。強豪校を倒す姿に下克上エースの称号まで与えられるほどに鮮烈な印象を与えた。

 プロ初登板も甲子園での阪神戦。リリーフで登板し1回を無失点に抑え「プロでもやれる」と思った。未来は明るいものと思われたが、そうはならなかった。制球に苦しみ、出番は年を追うごとに減っていった。昨年オフには左横手に改造し、今季に臨んだが戦力外通告が待っていた。

 現役続行を目指し11月10日のトライアウト受験に向け準備していた10月30日に球団から打撃投手の打診を受け迷った末に現役引退を決めた。「悔いはないです」と言い切る。

 あれほど抑えたかった打者に打たれるために投げる。「簡単だと思っていたけどむちゃくちゃ難しい」。プロ未勝利。これからはチームの勝利のために黒子に徹する。

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